第239話 マリカーもいいけどね
「え、な……なに……?」
突如聞こえた不気味な音に反応し、恐る恐る振り返るぬか娘。
するとその視線の先、部屋の奥から、
「――――カタカタカタカタ」
頭蓋骨を揺らし、奥歯をカタカタ鳴らした人型の骨。
一体のスケルトン(?)が現れた。
「ひいぃぃぃぃっ!? な、なに!? ア、アンデット? な、なにっ!?」
魔物は一見、ゲームなどでよく見る人型スケルトン。
しかし骨格はすべてツギハギで、ところどころ人の骨でないものまで混ざっている。
そんな歪な体をぎこちなく動かしながら、魔物はこちらに近づいてきていた。
両手には高枝切りバサミを装備している。
「ぎゃあぁああぁぁぁぁああぁっ!! キモイキモイ、気持ち悪いっ!! なんなのなんなの!? なんでこんな所にガイコツが出るの!?」
腰を抜かしながらシャカシャカと、アルテマの背中に隠れるぬか娘。
アルテマは手を前にかざして魔法攻撃の構えをとった。
「湧いて出た悪魔が、墓の骨にでも憑依したのだろう。……しかし火葬式のこの国ではまとまった骨などないから、少しずつ集まってムリヤリ一体になったのだ」
「……な、なんでそんな不気味なことを……」
「人や動物を殺して乗っ取るよりも簡単だからな。異世界でも魔法の炎で浄化させることのできなかった遺体などはアンデット化することが多い」
「カカカカカカッ!!!!」
不格好なスケルトンは無茶苦茶に曲がった関節をバラバラに動かしながら、それでも器用にジャンプし、アルテマたちに襲いかかってきた。
――――ジャキンッ!!!!
猟奇的な光。振り下ろされてくる鋭利なハサミ。
「……やれやれ、コイツはさっきの鳥と違ってザコ中のザコだな」
しかしアルテマは冷静に息を吐き、手に光を宿らせる。
バチッっと黒い火花がちり、一瞬だけ痛そうな顔をするアルテマ。
しかしすぐに集中を取り戻すと、
『――――〝
同じ魔法をまたジルが唱えてくれた。
さっきと違い、今度現れたのは一本の槍だけ。
だがその一本でも、
――――ドギュシュッ!!!!
「ガカカカッ――――カッ!??」
神使の聖槍。
下から突き貫かれたスケルトンはあっけなく砕け散り、砂と化した。
「や、やった!! な、なんだ……アンデットって意外と弱いの!?」
タクヒよりもさらにアッサリと倒されてしまったスケルトンに、驚き半分、拍子抜け半分のぬか娘。
「そりゃあ新鮮な肉体ではないからな。筋肉も臓器もない。あっても使い物にならない器を乗っ取ったところでさしたる強化にはならないさ。――――しかしアンデットの真に恐ろしいところは」
説明しようとしたところに、
「う、うわぁ!! なんだコイツらは!?」
「え!? 今度は幽霊じゃないの!??」
「違う、実体があるぞ、う、うわぁああぁぁっ!???」
周囲の住人たちから一斉に悲鳴が上がった。
混乱がより一層激しくなって、殴り合う音、組み合う騒動の振動か響いてきた!!
「え? な、なに……これ、どうなってるの? ま、……まさか!?」
感じる不穏な空気。怯えるぬか娘。
と、床のいたるところからメキメキメキメキと音が聞こえ、
「えっ??」
――――バキバキバキバキ!!!!
床板を破って、無種類・無数の骨が飛び出てきた!!
「ぎゃあぁああぁぁぁあああぁぁぁっ!???」
今度は人間だけじゃない。
犬や猫、蛇やカエルといった小さな生き物の骨までアンデット化して襲いかかってきたのだ。
そんな中――――、
「――――数が無限大、ってところだろう?」
そう答えたのはアルテマではなかった。
――――キュキュキュキュ――ブロォオンッ!!!!
同時にかかる車のエンジン。
そこには――――、
「モジョ!?」
気絶したままの誠司を押しのけて、代わりにモジョが運転席に座っていた。
「……すまん、ちょっと寝てた。状況は大体把握したから、とにかく乗れ。逃げるぞ!!」
「え? で、でも……そんな私たちだけって――――げふっ!??」
うろたえるぬか娘のケツを蹴っ飛ばし、一緒に後部座席に飛び込むアルテマ。
「さすがモジョだ。わかってくれているな」
「パニックアクション物もやり込んでいるからな。つかまっていろ!!」
屋根が剥がれて、ボンネットもひしゃげてしまっている偽島車。
しかしそこは日本が誇る商業用ワゴン車なだけあって、エンジンとタイヤだけ無事ならば――――ガキャキャキャキャッばきゃんっ!!!!
大穴が空いた居間の壁、砕けたサッシをさらに破壊し猛スピードでバックする。
腰丈ほどのブロック塀もなぎ倒し、乗り越えて、表の道に出るなり――――ぎゃきゃきゃきゃっ!!!!
スピンをしながらフロントを進行方向に向けた!!
張り付いていた小物スケルトンたちのほとんどが遠心力で吹き飛ばされた。
ブリャリャリャアアァァァアァンッ!!
やる気満々に唸りを上げるマフラー。
「モ、モ、モ、モジョ!? あんた免許持ってたっけっ!??」
後部座席でドアに貼り付きつつ叫ぶぬか娘。
そんな彼女にモジョは自信満々で答えた。
「大丈夫。
――――バンッ!!
底まで踏み抜かれたアクセルに。
サーーーーーーっとぬか娘の血の気が引いていった。
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