第237話 霊鳥タクヒ①
10分ほど走り、山道を抜けたころ。
モジョは外の景色に異変を感じた。
所々、木々の隙間から見える民家で、なにやら騒ぎが起こっている気配がするのだ。
通り過ぎる家の窓を目で追って中を確認すると、住人が何かと喧嘩しているようにも見える。
一軒だけじゃない。
次も、その次も同じように家の中で人が暴れているのだ。
「な……なんだ? なにか様子がおかしいぞ……?」
あきらかに不穏な空気を感じ、胸をざわつかせるモジョ。
そこにぬか娘が驚いた声を上げた。
「て、ちょっと!?? な、なにあれ!? なんか気持ち悪いのが飛んでくるんですけど~~~~~~~~っ!?」
示され、前をみると、遠くからこちらに向かって飛んでくる一羽の鳥が見えた。
それは鷲のようなシルエットの大きな鳥のようだったが、近づいてくるにつれ様子がおかしいのに気がつく。
「な……なんですかあの鳥は……? 異様に大きい……いや、それだけじゃなく……顔が……ひぃぃぃっ!??」
鳥は両翼が3メートルほどある巨鳥だったが、驚くべきはそこではない。
顔が鳥のソレではなく人間の女性の顔をしていたのだ。
長い黒髪を風に暴れさせて迫りくるその巨鳥の不気味さに、誠司は顔を引きつらせ、声も引きつらせた。
「……な、なんだアレは!?」
突然現れた化け物に、モジョも意味がわからず目をむくばかり。
「……こここ、これは、ままままままさか……!?? し、師匠!??」
嫌な予感に、より動揺を深めるアルテマ。
半パニックになりながら心のなかでジルに状況を報告する。
しかし巨鳥は待ってくれることもなく――――、
「キィヤァアアァァァァアアァァァァアアァァァァァァッ!!!!」
甲高い雄たけびを上げると、
――――バキャンッ!!――――バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!!!!!
アルテマたちの乗る車に体当たりをしてきた。
大きな鉤爪が車の屋根に突き刺さり――――ぐんっ!!
一瞬浮き上がったかと思うと、激しい衝撃とともに陽の光が頭に刺さってくる。
爪に持ち上げられた屋根がめくれ上がり、車体から剥がれてしまったからだ。
――――ガンッ!! ――――ガキャキャキャキャキャッ!!!!
そのまま屋根の鉄板を破り取り、上昇する巨鳥。
車は着地と同時に制御を失い横回りに回転する。
「う、うわわわわっ!????」
必死に制御を取り戻そうとする誠司だが、車はまるで言うことを聞かず、
「やばいっ!???」
「きゃぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!????」
「まずいっ!! 伏せろアルテマ!!」
迫ってくるガードレールに、モジョが衝突を予想してアルテマの頭をシートに押しつけた。
その瞬間――――ドガンッ!!
車はカードレールを突き破り、下にある住宅、その居間に、
――――ドガラグワラボカラゴギャラグシャラガッシャァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
サッシも壁も粉砕し、派手に突っ込んでしまった!!
「あ痛――たたたた……ちょっと……なにこれ……いったいどうなったの??」
エアバックを押しのけながら、ぬか娘が車から這い出てきた。
「あ……どうもお邪魔します……」
目があった家主のおばさん。反射的に挨拶をするが、部屋の入口に唖然とたたずんだおばさんはフライパンを持ったまま、顔面蒼白になって放心している。
部屋は見事なままにグチャグチャで、怪我人がいなかっただけが幸いだった。
「ぐ……モ……モジョ……無事か……」
アルテマもなんとか這い出てきて、モジョを引っ張り出そうとしている。
しかしモジョは
「ア、アルテマちゃんどうしよう……。なにあの鳥!? どうなってるの!?」
突然襲ってきた化け物に、ぬか娘は混乱してしまっている。
そんな彼女にアルテマは、
「……どうやら広範囲に展開したゴーレムの影響が、悪い方向に出てしまったらしい」
ジルに聞かされた話をぬか娘にも説明する。
それによるとゴーレムを操る異世界の精霊がこちらの世界の精霊を悪く刺激し、結果、古来より土地に巣食う地霊を暴れさせているという。
「つ……つまり?」
「いきなり現れた
「え……? じ、じゃあさっきの不気味な鳥は……?」
「暴れた地霊が鳥に取り憑き、魔物と化したモノだろうな」
見上げるアルテマとぬか娘。
するとさっきの巨鳥は空をぐるりと回ると、再び狙いをこちらに向けて急降下してきた。
「ま……魔物って……? 悪魔と何が違うの?」
「肉体を持つことで単純にパワーが上がる。……さっきの一撃を見ただろう? ……それでも、あの中に入っているのはおそらく低級悪魔だ」
「て……低級……? そ、それなのにアノ力なの……?」
迫りくる巨鳥に後ずさりながら、どこか隠れる場所を探すぬか娘。
「ああ、だから魔物は厄介なんだ」
「ど、ど、ど、ど、どうしたらいいのっ!??」
「どうもこうも……」
巨鳥に向かい、真正面を見据えてアルテマが携帯を構える。
「退治するしかない。師匠、お願いできますか?」
アルテマの声に、ジルが心の中で応える。
『……戦いは専門ではありませんけれど。致し方ありませんね』
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