第213話 二人の騎士
「アベール、カーマイン」
カイギネスの目配せ。
指示を理解した二人の近衛騎士は、その娘を救助するべく馬を走らせた。
少女の年齢は10歳前後。
全裸で土に汚れており、ところどころ傷も負っている。
額には大人の指ほどの角が一本生えており、それが有角族、つまり〝鬼〟だと明示していた。
鬼は希少とされている。
鬼の血は子に受け継がれない。
鬼が鬼であるのは本人かぎり。
では突然変異して生まれるのか?
それも違う。
鬼を産んだという親の記録は存在しない。
鬼はつねに、突然、どこからか出現する。
アルテマもそうだった。
帝国領内の枯れた荒野。
ただひとり行き倒れているところをジルが見つけて保護したのだ。
そんな〝鬼〟の存在は帝国ではアルテマ一人。
ラゼルハイジャン全世界でも数えるほどだという。
そして鬼は総じて能力が高い。
特に成長してからは、知力、魔力、武力、あらゆる才能が世界の知的種族を凌駕している。
まるで強大な悪魔か神の祝福でも受けたかのように……。
そんな存在だからこそ――――というわけでもないが、そうでなくても魔物に襲われている
たとえ相手が上級悪魔を憑依させた上級魔物だったとしても。
「た……助けてっ!!」
顔面を蒼白にして、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら逃げてくる少女。
足の裏は硬い岩肌に削られ血だらけになっていた。
アベールはそんな少女の言葉を理解できなかったが、意志はわかる。
「カーマイン!!」「おうっ!!」
二人は声を掛け合うと、さらに馬を加速させた。
上級魔物・
人の躯に上級悪魔が取り憑いて魔物となったそれは、
3メートルはあるかと思われるその身体は、元の骨格と筋肉が、悪魔によって肥大化されたもの。
無限の生命力と桁違いのパワーを持ったこの化け物を普通の戦士が相手をするならば十人は必要。
作りから推測すると、それは聖王国の物。
どうやらここで聖王国の兵士が、なんらかの理由で死んだらしい。
そこにどこからか湧いてきた上級悪魔が取り憑いたのだ。
「物騒な場所で死んだ兵士は、油で焼くか荷獣の餌にするのが定石だろうに、それとも全滅でもしたか?」
部下を追いつつ、冷静に状況を分析するカイギネス。
「――――ひぃっ!!??」
恐怖に引きつる少女に向かって、聖王国製の剣を振り上げる
――――ゴッ!!!!
唸りをあげ、振り下ろされる刃。
少女を真っ二つにする寸前。
――――ギィンッ!! メシャッ!!!!
飛び込んできたアベールがその一撃を受け止めた。
「ギュヒィィィィィィィィイィィンッ!!!!」
「ぬぐぅ!??」
桁違いな力!!
耐えきれず馬の前足が折れた。
アベールの肩も外れた。
そこに――――ドゴォォオオォォォォォオォンッ!!!!
「ウグはぁっ!??」
メキ――バキバキ!!
鈍い音を立てて吹き飛ばされるアベール。
鎧がひしゃげ、肋骨も潰された。
「――――ぐ、カーマイン!!」
しかし飛ばされながらもアベールは相棒の名を呼んだ。
呼ばれた相棒はアベールの撃破を気にとめることなく、
「つかまれっ!!」
――――ザンッ!!
馬の上から身を傾けて、少女を拾い上げた。
そして、そのまま胸に抱え込み、
そもそも勝てない相手。
それはアベールもわかっていた。
それでも飛び込んだのは、そうしないと少女を救えなかったことと、一瞬でも引きつけることができれば相棒が目的を果たしてくれるだろうと信頼していたからだ。
目論見どおり、少女を救出してくれたカーマイン。
全力で馬を駆り離れていくが、
「ぐるがあぐるがああぁぁあるぐるうるおうわあ……!!」
「お……おい……ちょっと……まて」
そんなのありか!? と目を丸くするアベール。
ギリギリギリ……!!
しなる
充分に力を溜めて、狙いを定め――――
――――ドキャッ!!!!
剣を投げつけた!!
ゴッ!!――――「っ!!??」――――ズドギャァンッ!!!!
轟速で、
「ぎゃるひあっぁぁぁやぁぁぁぁんっ!!!!」
貫かれた馬の胴体は、まるで割られた瓜のように弾け、肉塊と化す。
馬の血が爆発したかのように辺りに飛び散った。
その威力はドラゴンの鱗さえも貫くだろう一撃。
転がったカーマインはすぐさま起き上がり、少女を抱え、己の足で走り出す。
人の身長ほどの薄岩を軽々と持ち上げると、
――――ギリギリギリ……!!
先と同じように、カーマインに狙いをつけ、筋肉を引き縛った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます