第214話 王騎当千
逃げるカーマイン。
しかし落馬の衝撃で足を挫いてしまったか、思うように走れない。
彼は自分を狙う
薄岩を円盤に見立て、追撃してこようとする
重量があるぶん、破壊力ではさっきの剣よりもありそうだ。
だが、カーマインはそれを
ヘタにかわそうと足掻くよりも、そのほうが逃げ切れる可能性が高いから?
いや、違う。
カーマインは見たからだ。
カイギネス皇帝が迫っていたところを。
『――――ギッ!?』
大きな気配に
するとその目線のすぐ先に、ひときわ大きくて豪華な馬に乗った老人が、長い白髪をなびかせ突進してきていた。
馬に負けず豪華な鎧、手には屈強な戦士ですら扱いを選ぶ重量級のバスタードソードが握られている。
『ぐぎゃおぉぉぉっ!!!!』
――――ドンッ!!!!
構えた岩をものすごい勢いで射出する!!
しかしそれをカイギネスは、
「ぬんっ!!」
――――どばきゃっ!!!!
剣を持たない左腕で軽々粉砕すると、
――――ゴッ!!!!
反応しきれていない
ゴキャッバッシャァアアァァァァァアアアァァァァァァッァァァァァッ!!!!
片腕で振り抜かれた極太剣は、馬の跳躍も加味されて、魔物の頭から股下までを一気に切り裂いた。
ぶしゅうぅぅっっぅぅぅぅぅううぅぅぅぅ!!!!
噴水のように吹き上がる、茶色い血とともに、取り憑いていた悪魔が脱出する。
悪魔も、いまの一撃で瀕死の状態。
「……ふん。それでも聖王国の〝生きた〟兵士よりは手応えがあったかもしれんな」
つまらなそうに剣についた血糊を払うと、
「――――
『ギャフリュリュリュゥゥゥゥ……ッ!!??』
弱った悪魔をこともなげに魔素吸収する。
一瞬にして、あっけなく終わってしまった戦闘に、
「お……お見事でした……陛下。そしてお手を煩わせてしまい……申し訳ありませんでした」
アベールが痛む体を引きずって、皇帝の側へとやってきた。
カーマインも始末がついたかと、安心して足を緩めた。
「何を言っている。俺が命令したのは子供の救出だ。よくぞ護り通したな、ごくろうだった」
エリート騎士二人がかりで手も足も出なかった上級魔物を、文字通り、通りすがりの一撃で始末してしまったカイギネス。
そんな己の強さを、なにも見せつけるわけでもなく静かに剣をしまう。
そんな男をアベールは皇帝としてではなく、戦士としてなにより尊敬していた。
震えて怯えきった鬼少女を抱えてカーマインが戻ってくる。
「カイギネス陛下」
「うむ」
カーマインの腕の中、鎧にしがみつきながら、その少女はカイギネスを見上げる。
少女はなぜか服を着ておらず、長い髪も乱れてはいたが、その髪のツヤや肌の綺麗さから栄養状態は良好だと見て取れた。
――――はて、するとどこかの貴族か、商人の娘だろうか?
カイギネスが白い髭をもんで思案していると。
「――――▽◯――……!! ――□✕……」
少女がなにやら話しかけてきた。
「ああ……ちょっと待ってろ」
カイギネスは口の中でモゴモゴと呪文を唱える。
「――――書の精霊よ、これと我に意志の繋を与えよ――――
唱えた魔法は解読魔法。
皇帝一族にしか受け継がれていない専用魔法の一つである。(
「……どれ、これで話ができるはずだ。何を言いたかったんだ? もう一度申してみよ」
すると少女はびっくりした顔でカイギネスを見るが、やがて唾を飲み込み、
「マ……コ……。ニセジマ……マコ……」
震えた声で、それだけ言った。
「ニセジマ・マコ? どういう意味だ、それは?」
わからず、聞いてみるカイギネス。
しかし真子も、わからないと言った風に小さく首を振る。
「マコ……私の……名前……。それだけしか……わからない」
覗き込んでくる三人の男の目に怯えながら、それぞれを見回す。
カイギネスは「そうか、わかった」とだけ言うと、自分のマントを外し、真子にかけてやった。
「カイギネス陛下……」
カーマインが今後を確認する。
「……とにかくこの娘は帝国で保護する。峡谷の調査は一旦中止。すぐに陣営へ戻るぞ」
自分の馬にマコを乗せようと受け取ろうとするが、その手がピクリと止まった。
「陛下?」
「カ……カーマイン……!!」
訝しげに首を傾げるカーマイン。
その意味を先に知ってしまったアベール。
彼とカイギネスの視線の先には……。
「
振り返ったカーマインの目にもそれは映った。
さっきのバケモノとまったく同じ、上級魔物。
それがまた……――――視界にあるだけで……13体。
切り立った岩の影、そして峡谷の谷底からも湧いて出てきていた。
さらに上空には――――
「ド……
これもまた上級悪魔。
ありえない。と目を見開き震えるカーマインに、
「
そう言って自馬の手綱を握らせるカイギネス。
それに驚き、首を振るカーマイン。
「なっ!? で、できません!! へ、陛下を置いて近衛が逃げるなど!!」
悲鳴に近い声を上げるが、皇帝は無理矢理に手綱を押し付けると馬を降り、
「……お前らが邪魔で本気を出せんと言っておるのだ」
上級魔物14体。それに挑むは王将一騎。
まぎれもない絶体絶命の窮地に、それでもカイギネスは笑っていた。
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