第201話 守り手⑪
「だ、だから……落ち着けってゲンさん!! くそ、この悪魔めが……!!」
凶悪な筋力に圧され、組み伏されてしまった六段。
その両手首を逆に曲げるのは、目を真っ赤に染めて焦点を失った元一だった。
暴走の原因は、背後に見える悪魔だと察しがついている六段だが、そいつを攻撃してやろうにも両腕を封じられて身動きがとれない。
ギリギリミシミシ……!!
人間離れした腕力に、骨と筋が悲鳴をあげる。
「ぐうぅっっぅぅぅぅぅううぅぅぅぅっ!??」
『ふしゅぅぅぅぅぅぅーーーーっ!!』
人ではない、何かの唸りをあげて、さらに力を込めてくる元一。
「ぐあぁつ!! や、やめろゲンさん!! しょ、正気にもどってくれっ!!」
割れそうな骨の痛みに脂汗をにじませる。
だ、だめだ……じ、自分ではもう抑えきれない――――だ、誰か!?
助けを求めて視線を横に向けたとき、
「だめだ元一!! そんな悪魔などに飲み込まれるな!!」
アルテマが不思議な渦を手に、近づいてくるのが見えた。
その声に反応したのは背中の悪魔。
『キシャァ――――――――……ッ!!』
悪魔はアルテマが手にする
その怒りに操られた元一は、六段から離れ、ゆらりと立ち上がる。
悪魔に支配された赤い目でアルテマを睨みつけると、
『ぐぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉおぉぉっ!!!!』
獣のような咆哮を上げ突進した!!
「だ、だめだ、アルテマ!! に、逃げろっ!!」
振り上げられる元一の拳。
その馬鹿力を体験した六段は、悲痛にそう叫ぶ。
いくら剣と魔法の達人でも、圧倒的な物理破壊力の前にはただの子供。
万全な状態ならばまだしも彼女も疲労の色が濃い。
そんな身体で、あんな力の拳を受けてしまってはどうなるか。
「だ、だめだっゲンさんーーーーーーーーっ!!!!」
――――ゴッ!!!!
振り下ろされる鉄拳!!
ハンマーの如くうねりを上げ頭部を襲う!!
だがアルテマは、逃げる素振りすら見せない。
なぜだ!?
声にならない悲鳴をあげる六段だが、次の瞬間、
――――びたっ!!!!
額に触れるか触れないかギリギリのところ、まさに紙一重の位置で、その拳は止められた。
「はっ!??」
完全にやられたと想った六段は、その奇跡に目を丸くする。
逆にアルテマは、落ち着いたようすでその拳に手を添え、
「……すまぬな元一。私のせいで取り憑かれてしまったな……。もう少し踏ん張れるか?」
聞くと。
「あ……ああ当然じゃ……。こ……この腐れ悪魔が……よりによって……ワ、ワシの拳でアルテマを殴ろうなどと……千回殺しても……許さんぞ」
ギギギギギ……と、身体をキシませながら、元一が応えた。
一度は悪魔に支配された意識だったが、標的にアルテマの姿が映ったとたん、目が覚めた。
それでも支配しようとしてくる悪魔だったが、アルテマを想う元一の気持ちはそんなバケモノなんぞには負けはしない。
鋼の意志と豪熱の怒りで、むりやり悪魔の動きを止めてやったのだ。
「……まぁそう言ってやるな。ソレはお前の弓に宿る精でもあるのだ。完全に消滅してしまったら堕天の弓も壊れてしまうぞ」
「か……かまわん!! こんなモノ……万死に値する!!」
怒り心頭の元一に苦笑いのアルテマ。
「堕天の悪魔――――いや〝死神〟よ。お前の新しい主は、かつてのどの主よりも頑固で、強い精神の持ち主だ。このあとキツイ
嬉しそうに笑ってアルテマは、
「――――
触れた元一の拳から、中の悪魔を分解した。
ギリギリ消滅しない程度に。
ばしんばしんばしんばしんっ!!!!
さっそくと言うか、なんというか……。
戦いが終わり一段落した元一。
身体の自由が戻るやいなや、裏切り者の堕天の弓を、そこらに転がっていたデカい岩に打ち付けて再教育していた。
「あ……あのゲンさん……そ、そのへんで止めてやったらどうだ?」
飛び散る骨の欠片に、ちょっと引いている六段。
「いいや、コイツは絶対に許さん!! 少なくとも一万回は叩いてやらんと気が済まん!!」
ばしんばしんばしんばしんっ!!!!
周囲に響きわたる恐ろしい体罰の音。
若いメンバーはみな身を寄せ合って震えていた。
しかし……魔法具もいいことだけではないんだな。
六段は自分の魔法武器『ホーリークロウ』を見つめて、ボソリとつぶやく。
魔族の武器である堕天の弓から悪魔(死神)が現れたということは、聖なる武器であるホーリークロウからは天使が出てくるのだろうか?
「……のうアルテマ、天使ってどんなやつなんだ? 悪魔よりはいいやつなのか?」
尋ねてくる六段に、ほがらかな笑みを浮かべるアルテマ。
「善悪はともかくとして……」
コゲて倒れている半裸のクロードを指差すと、
「ああゆう感じのやつが多いな」
一転、冷ややかな視線で言った。
六段はものすご~~~~~~く嫌な顔をした。
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