第200話 守り手⑩

 強烈な爆音と熱。

 その二つが、炸裂した空気にのって円に広がる。

 飲み込まれたヨウツベは、迫りくる大迫力の爆炎をしっかりファインダーに収めながら地面の上を枯れ草のように転がった。


「――――ぐ、あいてててっ!! アルテマさん、みんなっ!?」


 土手まで飛ばされたが、草のクッションがなんとか衝撃を和らげてくれた。

 すぐさま上体を起こしたヨウツベはカメラとともに仲間の安否を確認する。

 四散した爆炎はすでに消えて、爆風にあおられた川の水面が激しく揺れていた。


 それだけで相当な威力があったのだと想像できるが、しかし炎に呑まれたはずの体は思ったほどの火傷は負っていなかった。

 きっとまたアルテマが、すんでのところで調整してくれたのだと思う。

 しかし無傷というわけではなく、服はコゲているし肌もヒリつく。髪の毛も先っちょが巻いている感じなので、そこそこの威力はあったようだが……。


「アルテマさんっ!!」


 晴れた視界の中心に、アルテマの姿を確認する。

 あわてて彼女の元に駆け寄るヨウツベ。

 途中、半焼き豚になって転がっているアニオタらしき肉塊を見たが、とりあえず無視してジャンプ。ちょっと離れたところに、だらしなく股を開いて大の字にノビているぬか娘が見えたので、そこはしっかり録画しながら走った。


 アルテマは青ざめた顔をしてワナワナと震えていた。

 まるでとても嫌なものでも見てしまった乙女のように。

 足元には、そのとっても嫌な金髪優男(裸族)が転がって、さらにその下にコゲた偽島が倒れていた。


 二人ともアモンの直撃をくらい、気を失っているようだ。

 爆圧に押しつぶされたのだろう。心なしか地面も凹んでいるように見えた。


「大丈夫ですか、アルテマさん!!」

「う……ああ。……だ、大丈夫だ……。うろろろろろろろろろろろ――――……」


 返事とは裏腹にゲ◯を吐き出してしまうアルテマ。

 リアルお〶ィンポを見てしまったのが相当ショックだったらしい。


 ……中身は40代半ばだったはずだが、ずいぶんと免疫がないんだな……。

 場違いなことを気にするヨウツベ。

 異世界では仕事と戦いずくめだったと聞いている。

 もしかしたら……ソッチ方面の経験は皆無なのかも――――いやいや、余計な詮索はやめておこう。さすがに失礼すぎる。


 ともかくコゲたワイシャツでクロードの〶ィンタマを覆い隠したヨウツベ。

 それでようやく落ち着いたアルテマは、はぁはぁと息を整え汗を拭った。

 おもむろにクロードの頭を一発蹴り飛ばすと、


「ふぅ~~~~~~~~……手こずらせおって馬鹿め……しかし……なんとか勝ったようだな……」


 ピクリとも動かない偽島たいしょうを見下ろして、ため息をつく。


「ええ……そ、そうですね……。で、でも……これどうしましょう? ゲンさんのせいで大惨事ですよ」


 100人近い死体の山。

 ここまで酷いともはや感覚も麻痺して現実味が薄い。

 それでも今後を考えると絶望的な展開に、ヨウツベは膝を震わせた。

 アルテマはそんな彼に、


「ああ……それは大丈夫だ。どうやら私も勘違いしていたみたいだ」


 言うとすかさず――――婬眼フェアリーズ

 倒れている組員たちに向け、鑑定魔法をかけてやる。


『加減された魔力による麻痺パラライズ状態。小一時間もすれば目覚めるゾ。でも糞尿垂れ流しでバッチイので近寄るな☆』


 やはりそうか。

 上空に舞い上げられ戦況を見渡したとき、冷静さを取り戻した。

 よくよく見れば一目瞭然。

 誰も死んでなどいないではないか。

 まったく……。

 戦いに心乱され、こんな見誤りをしてしまうなど。……やはり私はこのバカの言う通り、感覚まで鈍くなっているかもしれないな……忌々しいことだが……。


「じ、じゃあ……僕たちは犯罪者にならなくてすむんですね? よ……よかった~~~~~~~~……」


 本気で震え上がっていたヨウツベは、その鑑定結果を聞いて心底安心した。

 しかし麻痺しているから仕方のないことかもしれないが……糞尿垂れ流しとは……それはそれで殺されるに等しいダメージかもしれないな……。

 多くはないが、ちらほらと見える女性組員たちを眺めて……合掌する。


「ちょ……おい、まて!! 落ち着けゲンさん!!」


 そんなとき、少し離れたところから、男の切羽詰まった声が聞こえてきた。

 なんだ? アルテマと一緒に振り返る。

 すると背中に骸骨の悪魔をまとわせた元一と、彼を抑えようとしている六段が取っ組み合いになっていた。


「んんんのぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「ぐぉっ!? な、なんちゅう力……この……正気に……戻るんじゃ、ゲンさん!!」


 悪魔憑きになり、正気を失っている元一。

 それをなんとか鎮めようと六段が抑えにかかっているが、我を失い狂人化してしまっている元一はそんな彼を腕力で圧倒していた。


「て、な、なんでゲンさん!? ど、どうしようアルテマさん!??」

「……どうもこうも。元一め……精神の動揺を突かれて悪弓の精に取り憑かれおったな……」

「ま、魔弓!?? え? あ、あれそんなに危険なモノだったんですか!??」

「……強力な魔法具はそれだけ扱いも難しいし、代償も大きい」


 しょうがない……。

 こうなったのもおそらく私を想ってくれてのこと。

 後片付けはしてやらねばならんな……。


 アルテマは手に魔素吸収ソウル・イートの渦を携えると、暴れる恩人の元へと歩いていった。

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