第199話 守り手⑨

「終わりじゃ若造――――二度と、アルテマに手出しはさせん」


 つるを引き絞る――こちらも朦朧もうろうとした目。

 背中で悪魔が笑っている。

 その顔が、偽島には死神に見えた。


(くそう、くそう――――真子……!!)


 思いとは裏腹に、もう体が動いてくれない。

 無念に涙し、歯ぎしりする。

 そしてその心臓に向けて魔法の矢が放たれようとする瞬間。


「ちょっとそれはやり過ぎだ、元さんよぉ!!」


 ――――バキィッ!!!!

 飛び込んできた六段が、元一の体に飛び蹴りを食らわせた!!


「ぐはぁっ!???」


 まさかの不意打ちに、むろん対応できるはずもない元一は、つがえた矢を消滅させながら吹き飛ばされた。


 いまの一撃、もし放たれてたらシャレでも冗談でもなく殺していたぞ。

 それに気付いていないようすの元一。

 止めるのはこうするしかなかったと、着地しながら心で謝る六段。


 偽島も、飛ばされた勢いそのままにフラフラと砂利を蹴飛ばしながら後退する。

 そして――――どしゃぁっ!!

 転がり、仰向けに。


「――――え?」


 その視界すぐ上に、なぜか全裸のクロードが。


『生涯見たくない物ランキング』があるとしたら絶対3番目には入ってくるだろう〝ローアングルからの男の裸体〟を見せられて絶句する偽島。


 いったい何をやってるんだこの男は!?


 そう考えるのと同じくして、空から少女の叫び声が聞こえてきた。

 その声はあの子供巫女、アルテマのもの。


 なんで空から!??


 状況を見ていなかった偽島は、なにも理解できず、そして回避する体力もなく、ただ目を丸くするばかりだった。





 ラグエルの凶弾をなんとか食らわされずにすんだアルテマ。

 とっさの機転で助けてくれたぬか娘に感謝する。


 本当ならば戦士でもないタダの平民に手を貸してもらうなど、暗黒騎士のプライドが許さないところだが〝敗北脱ぎ〟などと、わけのわからないペナルティを押し付けてくる変態聖騎士相手にはこちらも矜持きょうじをもってやる義理などない。


 いいぞやれやれぬか娘!!


 素っ裸になってしまったクロードに、なにやら卑猥な攻めを受けているようだが、大丈夫、あの娘ならきっと乗り越えられる――――たぶん、きっと。

 ザキエルの竜巻に拘束され、身動きの取れないアルテマはもう応援するしかやることがなかった。


 元一は――――マズい、ピンチだ!?

 と思ったら、いやいや、やり返しているぞ?

 よしよしいいぞ、その調子!!

 そこだソコソコ一気にたたみかけろ――ってあぁ、やばいっ!!


 偽島との一進一退の攻防に、思わず力が入ってしまうアルテマ。


 くそう……魔力が戻ってくれば援護してやれるのに!!

 しかしアミュレットからのチャージは、まだあと数十秒かかりそう。


 そうこうしているうちに、ぬか娘のほうに動きがあった。

 なにをどうやったか知らないが、急に弱ってしまったクロード。

 そのどてっ腹に、ぬか娘が会心の馬蹴りを食らわした。

 その直後。


 ――――ふわっ。

「え??」


 ザキエルの風が止まった。

 魔法が消滅したからだ。

 逆神の剣がクロードの魔力を根こそぎ吸収したからだが、そんなことアルテマにはわからない。


 ともかく風の拘束がなくなったアルテマは一瞬の制止の後、


「う…うぉぉ……!??」


 ひゅ……ひゅるるるるるるるるる~~~~。

 地面に向けて落下し始めた。


「え? ちょ、ちょっと……だ、誰か!??」


 自由になったのはいいのだが、あいにくここは十数メートル。

 鉄の結束荘の屋根が小さく見える。

 こんな高さから落ちてしまっては、とうてい助かる希望はない。


 ま……まずいまずいまずい!!


 バタバタと、空中を平泳ぎするが意味は無し。

 アモンを出そうと頑張るが、まだあと少しのところで出てきてくれない。


 落下速度が増してくる。

 どんどん近づいてくる地面。

 六段が元一を蹴飛ばしている。

 ハダカの変態(クロード)が落下地点に入ってきた。


(くそ、アモン!! 出ろ、出ろアモンっ!!!!)


 そこに偽島も倒れ込んできた。

 もつれた男二人。

 ひっくり返ったクロードは、その裸体の前面を、すぐ近くまで落ちてきているアルテマへと開放した。


「ぎゃああぁぁああぁぁぁあああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」


『生涯見たくない物ランキング』があるとしたら絶対2番目には入ってくるだろう〝ハイアングルからの男のフル〶ィンポ〟を見せられて絶叫するアルテマ。


 反応しなかった両手に黒炎のくすぶりが現れた。

 間近に迫った、変態の〶ィン〶ィンに、乙女(熟女だが。でも乙女)の戦慄が爆発し、魔力チャージを加速させたのだ。


「ぎぃやあぁああぁぁぁああぁぁぁ、く、くるなぁああぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁ――――アモーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!」


 ――――ゴガッ!!!!


 突き出された両手から、かつてないほどの魔力が放出される。

 そしてそれはすぐに悪魔アモンの黒炎へと変換され――――、


 ど、どぉっっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおぉぉぉおおぉぉぉおぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおぉぉぉおんっ!!!!


 周囲を、爆炎と爆風の嵐に変えた。

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