第202話 落とし前
「……か……神の加護よ。わ、わ……我が力を彼に授け、き……奇跡の炎を灯さん……ヒ……ヒール……ぐふ……」
頬がこけ、身体もやせ細ってしまったクロード。
回復魔法ヒール。
いまのでいったい何度目だったのか?
もう数えるのも忘れるほどに連詠させられたクロードは、とうとう力尽き、硬い砂利の上に倒れてしまった。
「……おい、誰が休んでいいといったんじゃ? 患者はまだまだ山ほどおるぞ。さっさと起きて続きを唱えんか、このド
全身から殺気をみなぎらせた元一が、そんなクロードの襟首をつまみあげ、容赦のない眼光を突き刺した。
アルテマに襲いかかり、蹴り飛ばし、服まで脱がそうとした男に元一が下した処罰は〝死刑〟
猟銃による公開射殺を提案してきたが、集落のメンバーと、なによりアルテマ本人に「それはさすがにマズい」と止められた。
協議のすえ、アホにはこの場の怪我人全員の治療と、今後〝一生〟の絶対服従を言い渡した。
もちろんゴネたクロードだったが、天敵であるぬか娘と、鬼と化した元一に銃口を突きつけられ逆らえなかった。
ちなみにアニオタとヨウツベの二人も一部の責任を追求され、物置小屋で逆さ吊りの刑に処されている。
「……ちょっと気の毒な気もするが、まぁ自業自得ってことやな。ほれ、こいつらも頼むで……ヒック」
飲兵衛が怪我人を振り分けている。
元一にやられた者たちは、ほとんどが麻痺しただけで無傷だったが、倒れた衝撃で怪我をしてしまった者もいる。
アルテマが倒した者たちも同様。
問題は六段が倒した連中だが、これはほとんどが骨までイカれるほどの重症で、中には入院が必要そうな者もチラホラと。
さすがにこれらを病院へ運んだら問題になってしまうので、優先的に魔法治療させているのだ。
「ヒ……ヒ、ヒール……」
もう出ているのか、いないのか。
ほんのわずかな聖なる灯火で治療を続けるクロード。
そんな哀れな聖騎士を横目で見ながらアルテマは偽島の元へと歩いていった。
偽島誠は怪我の治療もされることなく、火傷を負った赤い肌もそのままにロープで縛り付けられていた。
一時はアモンの衝撃で気を失っていたが、六段に気付けされ、いまは目を覚ましている。
「……たのむ……」
「?」
近づいてきたアルテマに、偽島は頭を下げ、懇願してきた。
「……俺はもうなにをされてもいい。このまま警察に突き出されても、密に葬られても文句はいわない……。しかし娘は……娘だけは助けてやってくれないか?」
「……あのなぁ」
「たのむ……。工事のことなら……親父と相談して中止の方向に持っていく。だから、真子だけは見逃してやってくれ、この通りだ!!」
ボロボロに焼けこげたスーツ。
血に染まった足を
偽島にしてみれば、卑怯な悪は
はらわたが煮えくり返るほどに憎たらしいと思っている。
しかし実力行使に出て、ことごとく返り討ちにあったのは揺るぎない事実。
そしていま総力戦で決定的な敗北を喫した。
ならばもう、頭を下げるしかなかったのだ。
娘のために。
たとえ殺したいほどに憎い連中にでも。
流す涙はくやし涙か、それとも子を想う父の焦りか。
偽島は鼻先に滴をたらしながら、とにかく頭を下げ続けた。
アルテマは頬を掻きながら難しい顔をする。
「気持ちはわかった。……しかし残念ながら、お前は大きな勘違いをしているぞ?」
「…………………………………………なんだと?」
「……そ……そんな……。で、伝承の龍?」
アルテマたちは場所を校舎内に移し、今回の失踪事件の真相を話して聞かせた。
合わせて村長の思惑とソーラーパネル工事の理由も説明した。
聞いた偽島はしばらく理解に戸惑っていたが、駆けつけてきた村長も交え詳しく説明を続けると、ようやく納得して唾を飲み込んだ。
「す……すると……真子はその龍に連れ去られ……いや、誘われていったと?」
「そういうことじゃ」
「な……なんてことだ……じゃあ俺は……まるで無意味な戦いを?」
「じゃからワシは、最初から誤解だと言うておった」
冷ややかな目線を向ける元一。
「……う……」
それに対し、申し訳無さそうにうつむく偽島だったが、
「なにを言っている。けっきょくキレて応戦したのはお前たち年寄り二人だろうが、本当に争いを避けるつもりだったのなら方法はいくらでもあったはずだ」
「そういうアルテマちゃんだってけっこう早い段階から手を出してたと思うんだけど?」
しれっと説教側に回ろうとするアルテマに、ぬか娘が待ったをかけた。
「い、いやだからアレはもう……六段がやらかしてしまったから……」
「そうじゃぞ。むしろワシはけっこう途中まで大人しくしておったんじゃ」
「でも一番派手にキレたのがゲンさんだよね?」
「撃破数も一番だし」
「最後は銃まで持ち出しておったしの」
「う……うるさいわ。と、ともかく済んだことはもういいじゃろう!! 怪我人もあのバカに処理させるし、いまは次を考えるのが先決じゃ!! そうじゃろう偽島よ!!」
元一の言葉に、偽島は強くうなずき、深く頭を下げた。
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