第189話 アルテマに手を出すな

 ドカバキドキャバキャッ――――!!!!


 群がってくる、チンピラ組員たちの間を掘り進むように、背中を合わせた六段とアルテマが大暴れしている。

 聖なる鉄拳と蹴りを駆使した六段の空手技は、屈強な男どもを二枚重ねに吹き飛ばし、暗黒のオーラをまとったアルテマの魔剣(竹刀)は迫りくる相手に飛び上がるほどの激痛をお見舞いしていた。


 かたや吹き飛び、かたや苦痛に転げ回る。

 そんなこんなでさらに20人ほど戦闘不能にしていたが、しかし敵はまだまだ向かってくる。


「なにをやっているんだ!! 殺すつもりでやりなさいっ!! 真子をさらった連中なんだ、容赦などするなっ!!!!」


 ――――あとの処理は組がなんとでもしてやる、恐れずにヤレっ!!


 そう付け加え、人相を変えた偽島も橋の上を走りこっちへ向かってきた。

 その命令を聞いた組員たちは、さらに勢いを増して襲いかかってくる。

 組員たちにとって、偽島は正直どうでもいい上司だったが、娘の真子は違った。


 真子はよく学校の行き帰り、事務所に寄って父を待っていた。

 普段忙しい父に会える機会は家庭よりも会社のほうが多かったから。

 はじめは社員も気を遣っていたが、徐々にお互い慣れていき、最近では父に話すよりも社員と話す方が多くなっていたくらい。

 次期社長令嬢の真子は、そんな自分の立場を自覚していたがそれをけっして鼻にかけるようなことはせず、むしろ礼儀正しく誰にも平等に接してくれていた。

 下っ端の、泥だらけになったアルバイトにさえ、気さくにタオルを渡してくれるほどに。


 学校での楽しかったこと、嫌だったこと。

 友達と遊んだこと、喧嘩したこと。

 本来、父と話すようなことを社員たちとも話すようになり。

 ときには親には言えないような、恋の話なんてものも密かに共有していた。 


 そのせいで一部のグループから『クロード抹殺計画』が持ち上がっていたが、その矢先に、失踪が知らされたのである。


「許しが出たぞてめぇらぁぁぁぁっ!! お嬢を取り返すまで、まずは全員ギタギタにして逆さ吊りにでもしてやれやぁぁぁああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 群れの中心で現場監督が叫んだ。

 人がさらわれたとき、一番してはいけないのが〝話を聞く〟こと。

 そんなことをしても相手の立場をよくするだけ。

 ――――〝経験上〟。

 こういうふざけた連中には問答無用の突撃が効果絶大。

 人質に手を出す決断をされるまえに、ぶっ殺してしまうのが一番なのだ。


「ジジイと男はマジで殺せっ!! 子供巫女と女は押さえつけろっ!!!!」

「「「おおっ!!!!」」」 


 監督の指揮に、気合で応える組員たち。


「げっ!? わ、わ、私もっ!???」


 しっかりターゲットに入れられてしまったぬか娘。

 一部の、いや、まずまずの量の男どもが鼻の下を伸ばしながら向かってきた。


「ちょちょちょちょっとっ!! や、やめてやめてっ!! こっちくんな、触るな揉むなっ!!!! ぎゃ~~~~~~~~~~っ!!!!????」


 あっという間に捕り囲まれ、どさくさまぎれに色々されてしまう。


「――――くっ、ぬ、ぬか娘っ!???」


 その悲鳴に気を取られてしまったアルテマ。


「そこまでだ、このガキッ!!!!」


 一瞬の隙をつかれ、対峙していた組員の一人に頭を押さえ込まれてしまった。


「ぐ、しまっ――――こ、このっ!!!!」


 たとえ相手が凡人の雑兵だろうがチンピラだろうが、腕力だけならばアルテマよりも遥かに上。抵抗できずに押しつぶされ、さらに数人の男たちが乗りかかってきた。


「ア、アルテマ――――ぐわっ!!!!」


 アルテマが潰されたことにより、背中の守りがなくなった六段も死角から蹴りを食らわされ、吹き飛ばされる。

 そこに四方八方、拳や蹴り、バットや石の攻撃が襲いかかってきて、さすがの彼も防戦するしかなくなってしまう。

 カメラを回すヨウツベは急に劣勢になってしまった状況を見て、さすがに多勢に無勢を悟ってしまうが、だからといって打つ手のないこの状況。

 なんとか事情を説明し、和解の手立ては見出だせないものかと考えを巡らせる。

 しかしそんな都合のいい打開策など、簡単に思いつくわけもなく、そうしているうちにこっちにも組員たちがやってきた。


「ぐ、や、やばい、僕じゃ喧嘩どころか、逃げ足すらかなわない!?」


 万事休す。

 半泣き顔で、あきらめかけたとき。


 ――――ヒュ――――――――――――――――ドス。


 一本の黒い筋が、視界の端から端へと走った。


 え? なにいまの??

 その終わりの端を見ると――――ぐらり……どさ。


 アルテマの上に覆いかぶさっていた男の一人が、頭に黒く燃える矢を突き立てて、ゆっくりと倒れていった。

 ヨウツベは冷や汗を流しながら、筋の始まりへと視線を返すと、


 ――――おごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご……!!!!


 背中に悪魔のオーラを背負った元一が。

 メラメラと怒りに燃える弓を構え、尋常ならざる殺気を放出して立っていた。

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