第190話 一騎当千おじいさん

 ――――むごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご……!!!!


 倒れた組員を気にかけることなど微塵もなく、元一は次の矢をつがえる。

 アルテマは倒れた男の傷を見て、シャレにならないと目を丸くした。

 魔法の矢は男の頭を完全に貫いていたからだ。


「げ、元一!! ちょ、ちょっと待て!!」


 慌てて元一を止めようと起き上がろうとするが、いまだ組員たちに組み敷かれた状態で身動きがとれない。

 そんな組員たちは、やられてしまった仲間の傷を見てあぜんとしている。

 一人がようやく事態に気づき、アルテマから離れようとしたが、


 ――――ヒュ――――――――――――――――ドス。


「がっ!?」


 同じように頭を射抜かれて、人形のように倒れてしまう。

 さらに、


 ――――ヒュ――――――――――――――――ドス!

 ――――ヒュ――――――――――――――――ドス!!

 ――――ヒュ――――――――――――――――ドス!!!!


 キレた元一の無言の掃射。

 アルテマを組み敷いていた男たちは、次々と急所を射抜かれ倒されていった。


「貴様ら……ワシのかわいいアルテマに手を出して、無事に帰れるとは思っていないじゃろうな?」


 先の偽島よりも、遥かに年季の入った凄み。

 本物の狩人が持つ、命を消す覚悟を腹に落とした老人の目は、勢いにのった組員たちを消沈させ、震え上がらせるのに充分な迫力をもっていた。


 手は休むことなく弦を引く。


 ――――ヒュ――――――――――――――――ドス!

 ――――ヒュ――――――――――――――――ドス!!

 ――――ヒュ――――――――――――――――ドス!!!!


 さらに三人。地面に伏した。


「げ、元一!! やりすぎだ!! 殺してはだめだ!!」


 開放されたアルテマは、すぐさま起き上がって元一の元へと駆け寄る。


「どけ、アルテマよ。先に手を出してきたのはこいつらじゃ。話を聞かぬと言うのなら、全員仕留めて畑の肥やしに撒いてやるだけじゃ」

 

 静かに言い捨てる元一。

 たしかにそうだ、その通りなのだが!!


「これ、いいのか!???」


 駆け寄りつつも、途中で目が合ったヨウツベに確認する。

 すると顔面を真っ青にしたヨウツベが、


「い……いやいや。……だめ……絶対ダメ……」


 腰を抜かしながら小刻みに震えていた。

 こっちの倫理と法律をまだよく理解していないアルテマは、もしかしたらこれはアリなのかなと半分は思ったが、やはり完全アウトらしい。


「元一!! やはりマズイそうだ!! 冷静になれ!!」


 矢の前に立ちはだかるアルテマ。

 しかし元一は出現させた魔法の矢を、まとめてありったけ弓につがえると、アルテマを避け、空に向けて照準をさだめた。

 何をするつもりだ、と目を丸くするアルテマ。


「くらえい!! 貴様ら!! これがワシの奥義『天地重爆黒炎矢てんちじゅうばくこくえんし』じゃぁぁぁぁぁぁぁああぁっ!!!!」


 ――――どっ!!!! どしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃっ!!!!!!!!


 いつの間に、そんな技を作ったのか?

 いや名前なんてどうでもいいが、とにかく放たれた無数の魔法の矢は、いったん空に舞い上がり大きく広がった。そして反転し、それぞれに標的を見定めると、生きた猛禽のごとく殺気をまとい――――


 しゅどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど!!!!!!!!


 獲物を狩る群となって組員たちの頭に降り注いだ!!


「ば、馬鹿者っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


 矢はそれぞれが決めた標的に確実に刺さって、悲鳴を上げさせる間さえも与えず大量の人間を倒していった。


 これが戦場ならば大殊勲。

 しかしそうではない、だたの大喧嘩ならば大惨事。


 はるかに治安が悪かった異世界出身のアルテマでも、これがどれだけマズイことなのか理解できたし、ヨウツベにいたっては泡を吹いて失神している。

 あっというまに、河川敷は倒された人で埋め尽くされた。





「な……なな……なんでだ??」


 その惨劇を見下ろして、偽島は足を震わせた。

 いくら異世界の魔法具を装備していたとしても、所詮は老人。

 多少の犠牲を覚悟して、数で押し切れば、なんてことはない相手。

 そう考えていた見積もりが、この一瞬で見事にひっくり返された。


 しかしクロードは驚いてなどいなかった。

 あの老人ならば、このくらいはやるだろうと見定めていた。


「く、九郎さんっ!!」


 それでも娘を取り返さねばならないと、偽島は気丈に奮い立ち、クロードに助けを求める。


 クロードはもうアルテマたちに敵対する必要はなかったのだが、偽島の事情も捨ててはおけない。

 聖王国の騎士として。

 正義はどちらにあるのかを、見極めなければならなかったからだ。


 ……なんて本人は格好つけているが、正解は言うまでもなく、偽島側の早とちりだったのだが。

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