第188話 目には目を

「――――黒炎竜刃アモンッ!!!!」


 どぐわぁらがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!

 怒りの勢いにまかせ、一気に渡河してきた偽島組。

 そこを狙いすましたようにアルテマの黒炎魔法が襲いかかった。

 爆風に突き上げられた組員たちは、軽い火傷を負いながら背丈の倍ほどに舞い上がり、川中へと逆戻りする。

 本気で殺してしまうわけにはいかないので、やはり温度と爆圧は調整していた。


「と、いいですよ今のはアルテマさん!! できればもうちょっと炎を多めにお願いします!!」


 アニオタを引きずり、避難しながら器用にカメラを回しているヨウツベ。

 この期に及んで動画を作るつもりである。


「あのなぁ、いまはそんな場合じゃ――――」


 ないんだっ!!

 と言いたかったアルテマだか、こんな規模の騒動など、どう収めても綺麗に言い訳できるものじゃない。

 警察にも疑われている。

 むしろ、いま回さなければいつ回すのだ。

 すぐにそのことに気づき、カメラ目線でイイ顔を作る。


「あ、そこは自然体でいいですよ!!」


 そんなことをやってるあいだ、


「ぬあははははははははははははははははははっ!!!!」


 ――――どっかん、ばっかん、ぐっしゃん、ばっしゃんっ!!!!


 黒炎を突っ切り襲いかかってくる組員たち。

 六段は、それらを片っ端から千切っては投げ、千切っては投げ、笑っていた。


 黒炎竜刃アモンの一撃で気絶させたのは約20人ほど、残りは80人。

 まだまだ劣勢は変わらない。

 単騎奮闘している六段を、組員たちは次々と取り囲んでいく。


「くそっ!! 援護しなければっ!!」


 魔法強化されたとはいえ、それは攻撃力だけ。

 体力的には(屈強とはいえ)年寄りのまま。

 チンピラ崩れとはいえど体力自慢の若者を、四方八方で相手するのはもちろん無謀。

 黒炎竜刃アモンをぶっ放してやりたいが、それだと六段も巻き込んでしまう。


「魔神アルハラムに命ずる。汝、その御力の欠片を刃とし万物を滅する威を示せ――――魔呪浸刀レリクス!!」


 アルテマは背中に背負った竹刀を抜き放ち、悪魔の加護を付与した。

 黒いオーラの帯を引き、魔剣へと昇華した竹刀を下段に、突進するアルテマ。


「だめ、アルテマちゃん!!」


 そんな彼女の背中を見、悲鳴を上げるぬか娘。

 アルテマとて体力は子供なのだ。

 荒くれ集団に、援護とはいえ白兵戦を挑むのは、六段以上に無謀な判断。

 しかし、だからといって世話になっている恩人を見殺しにするなど、アルテマにはできない選択だった。


「ぜいっ!!!!」


 ――――ざしゅっ!! ざしゅざしゅざしゅっ!!!!

 群がる組員たちを二人、三人と斬り捨てる。


「ぐっはっ!? あ、ぎゃ、いぎい痛でででででででででっ!???」


 とはいえ本当に斬ったわけではない。

 これも加護を調整して威力を下げている。

 物理的な攻撃力はほぼゼロ

 かわりに魔の加護を神経に作用させることで激痛を感じさせるようにしてあった。


 痛みにのたうちまわる組員たち。

 その隙を縫って、アルテマは六段の元へと飛び込み、背中を合わせた。


「馬鹿者っ!! どうして手を出した!! どうするんだこの始末!! もはやどっちかが全滅せんと収まりなどつかんぞ!!」


 ゴングを鳴らしてしまった六段に、文句というか、怒りをぶつけるアルテマ。

 しかし六段は、


「キレた相手れんちゅうと話すにはなぁ――――」


 掴みかかってきた一人に肘打ちを。

 殴りかかってきた一人に上段蹴りを。

 そして、金属バットを振りかぶってきた一人に――――。


 ――――ずどっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!

 聖なる爪のカウンターを食らわして、


「いったん暴力でねじ伏せてやるのが一番よっ!!!!」


 このご時世。

 四方八方どころか上下左右からもホイッスルを鳴らされそうな爆弾発言をぶちかます昭和の老人。しかし彼に悪気などは一切ない。

 実際、六段が生まれたときの常識はそうだったのだから。

 そしてアルテマの常識も、悲しきかな、同じであった。


「うむ。それも一理ある!! ならばやはり、とことんやってやるしかないな!!」

「おう、背中は任せたぞっ!!!!」

「違う違う違う違うっ!!!!」


 そんな二人の熱血に、冷静に突っ込みを入れるぬか娘。

 しかしいくら間違いだと叫んでも、起きてしまった喧嘩の前に、もはや理屈も倫理も紙っぺら同然。


 だめだ私じゃどうにもできない。

 そう思って、後ろに下がった元一に助けを求めて振り返った。


 そこに――――。


 きらきらきらきら、きらきらきらきら。


 まぶしい太陽の日差しをまたたかせ、一具いちぐの弓が宙に舞う。

 それは元一の専用魔法武器『堕天の弓』。

 校舎の二階からそれを放り投げたのは、彼の妻、節子だった。


「あなた、アルテマを助けてやってください!! お願いします!!」


 口数の、けっして多くない妻の願い。

 そうでなくても、大事な娘に手を出す輩はすべて始末すると誓った元一。

 弓を手にした瞬間――――。


 ――――ごっ――――――――――――――――――――――――っ!!!!


 元一の背中に悪魔が宿り。


 ――――ジャキンッ!!!!

 腕には魔法の黒矢こくしが無数に装填された。


「あ……」


 そしてその目を見てしまったぬか娘は、


「これ、ダメなやつだ」


 と、すべてをあきらめ、その射程範囲から離脱した。

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