第162話 拒絶の悪魔・季里姫④

 垣根を飛び越え、周囲に熱波と爆風が拡がった。

 舞い上がる火の粉と土煙の中、現れたのははかまの裾をちょっぴり焦がしたアルテマ。


「ア……アルテマ、無事じゃったか!?」


 アモンの爆風をクッションにして着地したのだろう。

 元一は、無事に帰ってきたアルテマに胸をなで下ろす。


「ああ、飛ばされたときには焦ったが……なんとかな」


 空の上ではちょっと死ぬんじゃないかとチビリかけたが、あの光玉の直撃を食らうことを思えばまだ助かったほうだ。ナイスアシストだとクロードに礼を言ってやってもいいかもしれない。


「……まあ、それは後にしとくか」


 アモンの炎に焼かれたクロードはマリモのような髪の毛で黒焦げになっていた。


「お……おのれ……アルテマ。貴様……どこまでも――――ぐふ」


 そしてドシャリと崩れ落ちるクロード。

「………………」

 放っておけばじき起き上がるだろうと、アルテマは怨霊季里姫へと注意を移す。

 怨霊は爆発をものともせず、例の光玉を構えていた。

 そして照準をクロードからアルテマに移すと、


「――――ちっ」

『消えろ、無礼者ども』


 ――――ゴッ!!


 三度みたび破壊の光を放ってきた!!

 アルテマはすばやくクロードの手から勇者の剣を抜き取る。

 そして体制を低く、光玉の下に潜り込むと、


「ぜやぁっ!!」


 すくい上げるように切り上げた!!


 剣に触れた光玉は真っ二つに割れ、軌道を上空に反らしそのまま斜め上へと、

 どこごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!

 炸裂し、爆炎の帯を伸ばした。


『……なんだと?』


 自慢の術を切り破られた怨霊は、瞳のない目を大きく開けて動揺を見せた。

 アルテマはゆらりと立ち上がり、薄く笑った。


「ふん、思った通り……こっちのほうが貴様には相性がいい」


 切っ先を怨霊に突きつける。

 クロードは倒されて(?)しまったが、残った聖剣は生きていた。

 魔呪浸刀レリクスと同格の加護を受けた剣だが、属性の問題で怨霊にはこっちのほうが効果が高い。

 聖騎士の剣を装備するなど、本当ならば虫唾が走るところ。

 帝国の部下たちが見たら泣いてショックを受けるところだろうが、相手は格上(今の自分よりは)の上級悪魔。言ってはられない。


 怨霊は一瞬の動揺の後、ならばと再び霊気を上げた。


『ふん、小賢しいな。ではこれならどうだ?』


 ――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


「な、なにっ!?」


 上昇する霊気とともに怨霊の身体から、破壊の光玉がさらに三つ、現れた。


『……その小さな体では到底さばききれまいて』


 不敵に笑う怨霊。

 アルテマの顔に驚きと焦りが走った。

 まさかの複数同時攻撃。

 一つなら何とかしのげると思った矢先にこれは……。


『今度こそ、死ぬが良い!!』


 ――――ドドドンッ!!

 怒気を込め振り下ろされる爪。

 それに弾かれるように三つの光玉が同時に射出された!!


「ちぃっ!!」


 アルテマは再び体勢を低くとり、地面を滑るように怨霊に向かって突進した。

 駆け抜けざま光玉の一個を切り上げる。


 どこごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!

 さっきと同じく爆発が空へと抜けていく。


『甘いわ』


 ――――グンッ!!

 しかし残った二つは軌道を変え、左右からアルテマを挟み撃ってくる!!


(――――くっ、頼むぞ!!)


 アルテマの狙いは怨霊へ、直の一撃。

 しかしその間合いに飛び込むまでは、もう五歩ほど及ばない。

 タイミング的にやられるのはアルテマのほうだった。


 ただし――――


 ダンッ!!

 後ろから床板を踏み抜く音と、


「ぐおぬぉりゃぁぁぁぁっ!!」


 猛々しい六段の叫び声が聞こえた。


 ――――仲間の援護があれば話は別。


 アルテマは歩を止めることなく怨霊に迫る!!

 地を蹴った六段は、そんなアルテマに一瞬で追いついた。

 そして――――、


謝意忍具シャイニング天撃拳アッパー!!」


 ズドゴォォォォォォォォンッ!!!!

 気合一閃!!


 ホーリークロウを装備した一撃が、挟み撃ってくる光玉の一つを突き上げた!!

 ジルが用意してくれたその鉤爪は、エルフの村、特製の一品。

 クロードのそれと同じく聖なる加護が授けられていた。

 光玉は天高く打ち上げられ爆発する!!


『むっ!?』


 取るに足らない年寄りだと気にもしていなかったが、まさか法具を備えし術者だったか? 怨霊の目に、わずかだが焦りの色が浮かぶ。

 しかし片方を防がれたとて、玉はもう一つ残っている。

 そのもう一つはまさに今、アルテマに着弾しようとしていた。


「ちいっ!!」


 体を捻り、そちらも粉砕しようと追う六段だが、間に合わない。

 躱す距離すらなくなったそれは、アルテマに直撃すると思われたが、


 ――――ザンッ!!


 彼女の頭に触れる寸前、黒い矢が玉に突き刺さった!!

 その力に軌道を変えられ、


 ――――チリッ!!


 光玉はアルテマの髪をかすめ、彼方へと逸れていった。

 後ろには堕天の弓を構えた元一。


(やはり頼りになるなジイたちは!!)


 ――――ざんっ!!

 信じて、勢いを緩めなかったアルテマはすでに怨霊の懐に入っていた。


『なんと、貴様っ!?』

「遅いわっ!!」


 返り討とうと脇差しを抜く怨霊だが、

 ――――ドズゥ!!!!

 聖剣は、怨霊の刀を躱し、腹へと深く突き刺さった!!


『ムグおっ!??』


 霊体内に侵入した聖なる加護。

 怨霊の悪気に反応して青く燃え上がる!!

 それは怨霊の身に耐え難い苦痛とダメージを与える。

 さらに。

 そこに追い打ちをかけるようにアルテマは、


「アモンッ!!!!」


 どぐわぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!


 とびきり濃い暗黒の炎をも、重ねがけた!!

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