第130話 15年の謎

「よし、できるのならばやってくれ。見返りは用意しよう」

「そんな話を俺が聞くとでも?」


 アルテマの一方的な物言いに、図々しいなとイラつくクロード。

 しかしアルテマはそんな怒気を無視してさらに一方的な提案を投げつける。


「それから、我々の一時休戦も申し出たい」

「はぁ!? 貴様なにを言い出すつもりだ!?」


「なにもくそも当然の事を言っているつもりだが? そもそも我々が敵対していたのはラゼルハイジャンでの話であってこっちの世界には関係ないだろう。ここには奪い合う土地も資源も信者もいないのだからな。……そもそもお前はなぜこうも執拗に私の命を狙う?」

「は、知れたこと!! 貴様の首を持ち帰り、故郷に凱旋するためよ!!」

「帰れるアテはあるのか?」

「そんなものはない!!」


 大威張りで答えるクロードに、肩を落とすアルテマ。

 もしかしたらとちょっとでも期待した自分が馬鹿だった。


「なら、まずは帰る方法を見つけることが先決だろう。争っている場合じゃないと思うが……?」

「貴様こそ、あの忌まわしき開門揖盗デモン・ザ・ホールとやらの卑怯技でどうにかならんのか?」

「なにが卑怯技だ。……あれはそんなに万能ではない。どうしてもと言うのなら今度お前で実験してやってもいいがな。――――それから」


 アルテマはずっと聞きたかったことを、ついでに聞いてみることにした。


「15年も前にこの世界にやってきたと言っていたが……それが本当ならば、なぜいまのお前は若いままなのだ? 異世界にいた頃と少しも変わってないように見えるが?」

「ふん、それはな……」


 かくかくしかじか。クロードは転移してきた時の状況をアルテマに説明した。

 ずいぶんと簡単に話してくれるもんだなとアルテマはある意味あきれたが、こんな話、普通の人間に聞かせたところで笑われてお終いだったのだろう。いままでの鬱憤を吐き出すかのようにつらつらと喋りきった。


「……なんと、お前も私と同じ子供返りしていたということか!?」

「ああ、いかにも。ん? まさかアルテマよ貴様もだというのか?」

「見ればわかるだろう!!」

「いや……もうそろそろ還暦も近いだろうから。どうせ独身なのだろうし全力で若作りしているのだと思っていたが……?」

「お前マジでぶっ殺すぞ!! それに私はまだ四十代だ!!」


 独身ではあるがな!!

 と、これは心の中で叫ぶアルテマ。


「なに? ……どういうことだ? 15年前……貴様はたしかにの年齢だったはず……。少なくとも20代には見えなかったが?」

「うるせえよ。お前モテなかっただろう、うるせえよ!! 私にとっては半年前のことなんだよそれは!!」

「??? ……いったい貴様さっきからなにを言っている?」

「むお~~~~~~っ!!」


 コイツにだけは言われたくない台詞を言われたなとアルテマは歯をギリギリ鳴らし頭を掻きむしる。

 しかしつまらぬことで喧嘩してもしょうがない。

 噴火しそうな怒りをなんとか押さえつけ、アルテマもこれまでの経緯をクロードに説明した。


「……なんと、ならば元の世界はまだ、あのときのままだと言うのか!?」

「おおむねそうだ。お師匠の話では、お前が消えたとの噂はごく最近流れてきたと言っていたぞ」


 それを聞いたクロードは猛烈にショックを受け、青ざめた顔でヨロヨロとよろけると額を覆いながらうずくまった。


「え……と……うん? ではえ~~~~……それはどういうことだ……俺は15年前にこの世界に飛ばされて…………でも聖王国はあのときのまま……? アルテマも……。では俺は何のためにこの世界でひとり15年を過ごしたのだ???」

「そんなことは知らん。とにかく私の目線だと、お前は勝手に私を追い越してはるか早い時代にここに落ち、一人で苦労しながら私を待っていたということになるな」

「なぜだ!? なぜ神は俺にそんな無意味な試練を与えた!??」

「だから知らん。そもそもあの谷に宿っていたのは聖王国の神ではなく、我が帝国の魔神様だ。聖騎士なんぞ汚らしい者の扱いなどテキトウで良いとお考えになったのかもしれんな」

「だから嫌いなんだよ、お前たち魔族は!!!!」


 まさかのエコひいき!?

 そんなことで俺は膨大な時間を無意味に過ごさねばならなかったのか!?

 身元引受人も住所も戸籍もなにもない。正体不明で言葉も理解できない子供がここまで大きくなるのにどれだけの苦労があったと思っているんだ!!

 お世話になった孤児院のみんなや、中学校のときに経験した初キッスの思い出は素敵だったが!!


「……なんだお前、結構楽しんでいたんじゃないのか?」

「う……うぅぅぅうるさいわい!!」

「ともかく事情はわかった。……ならばなおさら私達が戦う必要はない。お前の故郷は今日もあのときのまま変わってはいない。剣を下ろすと言うのならば開門揖盗デモン・ザ・ホールを使わせてやらんでもないぞ?」

 

 異世界との連絡手段はいまのところそれしかない。

 久しぶりの聖王国。

 消えたと聞いて親族もさぞ心配しているだろう。

 一刻も早く無事を知らせてやりたい。

 その気持ちはやまやまだが……。


「やまやまだがーーーーーーーーっ!!」

「全部声に出てるぞ?」

「だが貴様!! その魔法を使って帝国に援助をしているな!!」

「ああ」

「ならばそんなもので仲良く連絡を取ったりなどしたら。俺は完全に裏切り者扱いになるんじゃないのか!??」

「それはお前の話術次第だろう?」

「無理だ!! こう見えても俺は親族の中では一番論議が苦手なのだ、うまい説明などできるわけがない、意外に思うだろうがな!!」

「いや、全然」


 辛辣に応えてやる。

 しかし偽島組のことも含め、この男を丸め込めば色々と利益があるのは確かだ。

 アルテマはなんとかして和解に持ち込めないものかと思案をめぐらせた。

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