第129話 子供どうし

 みなの熱い視線を背中に受け、丸太橋に足をかけるアルテマ。


「頑張れアルテマちゃん!!」

「いいか先手必勝だぞ!!」

「ルールなんてないんや、金的もありやでぇ~~ヒック」

「できれば見せ場も作ってください!!」

「いいか、撃つときは言うからな。頭を下げるんじゃぞ!!」


 色々な応援を受け、橋を進んでいく。

 それを見て、さらなる笑みを浮かべるクロード。

 ようやく一対一の対決が実現してうれしいのだろうか。

 勝ちを確信したように笑っている。


 ちょうど川の真ん中辺りまで進んだところで、アルテマは足を止めた。

 そしてそのまま腕を組み、動こうとしない。


「ん? どうしたアルテマよ、なぜ立ち止まる? まさかここまできて怖気づいたんじゃあるまいな」

「馬鹿か、そんなわけないだろう」

「ならば、早く来るがいい。こっちの、この広場の中央まで来るのだ」


 なんだか誘うように後ろに歩き、さあ、と手を広げてくるクロード。

 しかしアルテマは、


「断る」


 と、さきほどのお返しとばかりに拒絶してやった。


「んん?? どういうことだ??」


 さすがに意味が解らず目を点にしてしまうクロード。

 アルテマは背負っていた子供用竹刀を抜くと、魔呪浸刀レリクスの加護を宿らせた。そしてその切っ先で足元の丸太に横へ一本、傷を入れた。


「元一との約束でな。私はこの集落から出てはいけないということになっている。なので私が進めるのはこの線までだ」

「な、なにぃ!! では決闘はどうなるというのだ!?」

「お前がここまでやってこい。……この橋の上で決着をつけてやろうじゃないか」

「な、なんだと? それは困るぞ!!」

「……困る?」


 妙な言い回しに眉を歪めるアルテマ。

 クロードは『しまった』と一つ咳払いし、なにかを誤魔化すように目線を泳がせる。

 はて……?

 アルテマはそんなクロードの足元に注目した。

 すると橋の出口から、クロードが立つ場所までの土が少し荒れているのに気がついた。


「…………………………………………」


 すべてを察してアルテマはみなを振り返る。

 おいコイツもやってんぞ、の視線を添えて。


 元一たちもそれに気付き、互いを見合わせながら微妙な顔をした。


「ああ……そういえば昨日、徹夜で穴掘ってたとき……同じような音が川辺から聞こえてきてたな。……てっきり野生の猪かなんかが畑でも荒らしてるのかと思っていたが……そうか、あれはアイツだったか……」


 額を押さえて六段があきれる。

 なにがあきれるかといえば、あの馬鹿と考えが被ってしまっていた自分たちにあきれているのだが。

 ともかくクロードも落とし穴を作ってアルテマをめようとしていたのだ。

 こっちに来ないわけである。


「お、俺はワケあってこの場から動くことができないのだ!! お、お前がこっちへ来い!!」


 あきらかに動揺し、顔色が変わるクロード。

 アルテマはこんな馬鹿と同じことをしていた事実に、すでに致命的な精神ダメージを負っていた。


「アルテマちゃ~~~~ん。どんまいどんまい!! こっちのはまだバレてないんだから無かったことにしよう。大丈夫、ノーダメノーダメ!!」

「……う、うむ……」


 ぬか娘の励ましに、頭痛を堪えつつ手を挙げるアルテマ。

 計略が被るなんてこと、戦場ではよくあること。

 落とし穴は決して幼稚な罠ではない。

 古今数多の戦場で確かな成果をあげ続けている立派な術計なのだ。


 必死に自分にそう言い聞かせ、言葉で恥を埋め隠すアルテマであった。





 がんとしてその場から動こうとしないクロード。

 しかしアルテマとてこれ以上は進めない。

 ではどうするか。


「……なら仕方がない。戦いはまたの機会としよう」


 どうにもならないなと軽いため息を吐き、竹刀を背中に収めるアルテマ。

 いざとなったとき、とっておきの魅了系魔法『腐の誓いシスターセル』をかけて籠絡してやろうと考えていたのだが……。


 中止宣言を聞いたクロードは目を丸くして、


「なっ!? 臆したとういのか貴様!??」

「馬鹿か。お互い近づけんのならば決闘などできるわけがないだろう」

「だからそれはお前がこっちに来れば!!」

「無理無理。……そもそも貴様を呼び出したのは決闘が目的ではなかったしな……」

「なんだと? ならば何だというのだ!!」

「アレの解呪魔法を知らんか聞いてみたかっただけだ」


 言って、後ろで応援しているハレンチ姿のぬか娘を指差した

 クロードはそれを見て、しばし考えた後『ああ、そうだったな』と何かを思い出し事態を飲み込めた顔をする。


「ほほぉ……そういうことか。たしかにアレの呪いはただの魔法では解除できん。ふふふ、ふはは、ふははははははは!!」


 間抜けな者どもよ。と言わんばかりに高笑い。 


「そうか、あの裏切り者。さては神に見放され神聖魔法が使えなくなっているな。さもありなん、自業自得というやつだ!!」

「おい、師匠を馬鹿にするとただじゃおかんぞ?」

「馬鹿になどしとらん。当然の結果だと言っているのだ。それにしてもあの女、解呪できんことをわかっていながら着せるなど、相変わらず残酷なことをするものよ」

「余計なことは言わんでいい。貴様はアレを外すことができるのか、できないのか?」

「俺を誰だと思っている? 栄えある聖王国の栄誉ある騎士として――――」

「わかった。貴様の自己紹介なんぞもう千回は聞いている黙れ。そしてできるのなら力を借せ」

「言い方よ。それが人にものを頼む態度か!?」

「と言うことは、できるのだな?」

「無論だ!!」

「それだけ聞ければ充分だ」


 そんな二人のやり取りに、ヨウツベとアニオタはぬか娘には聞こえないよう、そっぽを向いて舌打ちした。

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