第128話 受けて立つ、か……?

「あんなこと言ってるけどどうするのアルテマちゃん」

「むう……どうするもこうするも……。計略を見破られているようだからな。残念だが作戦は失敗だな」


 せっかく徹夜で準備してもらったのに……と、アルテマは不機嫌に頬を膨らませた。


「え~~~~!! じゃあどうするの? あいつを捕まえないとこの鎧脱げないんでしょ!? やだよ私、一生こんなハレンチな格好で生きていくの!!」

「そうだなぁ……」


 空になったカップと割り箸をゴミ箱に入れ、アルテマは考え込む。

 べつにどうしても今日あいつを捕獲しなければならないなんてことはない。

 やつが私の首を狙っている以上、捕獲のチャンスなどいくらでもあるのだ。

 ここはもう石でも投げて追い返してやっても良い(極悪)。


 しかしだ。

 せっかく元一に矢文まで撃ってもらっておびき寄せたという経緯もある。

 徹夜作業につき合ってもらった負い目もあるし、このまま追い返すのはなんともバカバカしい気がしないでもない。


 あいつはいま一人。

 罠にはかからなかったとはいえ、無防備なのは間違いない。

 ならば本当に一騎打ちをやってみてもいいかもしれないなとアルテマは判断する。

 だけども、それにはクリアしなければならない問題がもう一つ。


「どうしたアルテマよ。……まさか卑怯な作戦がバレて怖気づいたんじゃあるまいな?」

「それこそまさか、だな。怖気づいているのはお前の方だろう? 威勢はいいが結局のところ敵の陣地にも入り込めぬ小心者が」


 言い返すアルテマの後ろで「そうだ、そうだ」とぬか娘が加勢している。

 しかしそんな挑発には乗ってこないクロード。


「クレバーと言ってもらおうか? 罠があるのをわかっていながら突き進むのは勇気ではない。おろかな蛮勇というのだ。われわれ高貴なハイエルフにはもっとも似合わない言葉だよ」


 派手な特攻服で騒音を撒き散らしながら白昼堂々盗みを働く連中のどこがクレバーだと? たまたまちょっと策を見破ったくらいでなにを調子にのっているのか、この馬鹿ひょろ長耳族は。と、アルテマは言い返してやりたくなったが、なんだかまともに相手をするのが面倒になって代わりに大きなため息で応えた。


 ちなみに今のクロードは、あの頭の悪そうな特攻服ではない。

 クロードの中ではアレと自分は別人設定なので、今日は違う服装で来ていた。

 普通の白Tにジーンズといったラフな格好だが、見た目だけは良いクロード。長い金髪が風になびいて今日は恐ろしく美男子であった。


 もっとも、背中に背負ったビニール製の勇者の剣がなければ、の話だが。


「……いいだろう、そこで待っていろ。相手をしてやろう」


 そう言うとアルテマは階下へと下りていく。


「ちょ、ちょっとアルテマちゃん!? ほんとに戦うつもりなの!? 勝てるの??」


 慌てて後を追いかけるぬか娘。

 子供返りし弱体化したいまのアルテマは、クロードに対し実力でわずかに及ばない。

 それは本人も認めていた。

 なのに真っ向から勝負を受けるとういのは危険じゃないだろうか?

 しかしアルテマは平然と手を開いて、


「大丈夫だ、この体でも経験値は生きている。猪突猛進しか知らん馬鹿の手首くらいいくらでも捻ってやるさ」


 余裕ありげにそう笑った。





「ふっふっふ……。ようやく観念したかアルテマよ」


 対岸に降りてきたアルテマ。

 段取りと違う演出に、隠れてカメラを回していたヨウツベが慌ててアルテマに駆け寄ってきた。


「だ、だ、だ、大丈夫なんですかアルテマさん。いや、絵的にはおいしい展開ですけど負けてしまっては元も子もないですよ!?」

「大丈夫だ負けはしない」

「しかし……文字通り大人と子供の対決ですよ。前回はみんなで戦って引き分けましたが一騎打ちとなると……。ちょっと待ってくださいね、いま元さんたちを呼びますから」


 携帯を取り出し、持ち場で潜んでいるはずの元一に連絡を取ろうとするヨウツベ。


「不要じゃ。もう来とる」


 と、すぐ後ろから声がかけられた。

 元一だった。

 六段に占いさん、飲兵衛も一緒に登場する。


「馬鹿の馬鹿でかい声はよく通るのでな、話はだいたいわかっている。……意外と学習能力のあるやつだったな。せっかく掘り直した穴が無駄になったわ」


 面白くなさそうに頭をかく六段。


「……いやぁまぁ、普通に考えれば引っかかるわけないんやがの……ヒック」

「だからそんな面倒くさいことせんでもワシがまた破邪退人はじゃたいじんの一撃でノシてやろうと言うたんじゃ。……どうじゃ、いまからでも遅くはない。やってやろうか?」

「いやいや占いはん。あんたあの後、疲れて体調崩しとったやないか。あかんあかん、主治医としてあの術はよほどのことがないかぎり使わさへんで?」

「占いさんの手を借りるまでもない。私が一人でケリをつけてくる」

「……大丈夫なのかアルテマよ」


 心配そうに見つめるが、アルテマは大丈夫だと笑ってみせる。

 勝てないが〝負けるつもり〟もない。

 それを見て元一は彼女を信じ、見守ることにした。


「わかった。お前も騎士の誇りがあるだろうからな、ここは花を持たせよう。だが、無理はするなよ? 負けそうになったらいつでも合図をしろ、ワシがなんとかしてやる」


 言いつつ、背中から猟銃を抜き出す。

 そして座った目で実弾を装填した。


「アルテマちゃん。負けちゃだめだよ!! 負けたら死人が出ることになるんだからね!!」

「……お、おう……」


 ……これは本気の目だな。

 あふれる元一の殺気に、その場の全員がドン引きし、戦いとはまた別の意味で緊張が走った。

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