第131話 こっちにおいでよ。
「よし、ではこうしよう」
一つ妙案が浮かんだアルテマは、手をポンと叩いた。
「私からは情報を提供しよう。その代わりお前には行動を提供してもらう」
「行動だと? ……どういうことだ?」
「そのままの意味だよ。情報の対価に働いてもらおうということだ」
それを聞いたクロードの眉が激しくつり上がった。
「な、な、なんだと!? 俺様がなぜよりにもよって貴様なんぞの下で働かなきゃいかんのだ!!」
「下で働けなどと言ってはいない。交換条件だと言っている。異世界の状況が知りたいのだろう? お前の無事を知らせることも帝国からの使者を使えば可能だろう。どうだ? 立場はあくまでイーブンということで取引しようじゃないか」
「なに!? ……しかしさっきも言ったが、敵である貴様と手を組むようなことなど俺にはできん。裏切りと思われてしまうからな!!」
悪い話ではなかったが、それでも立場が邪魔をして、うなずくことができないクロード。
「だからそれは異世界に戻ってからでいいだろう? いまの我々はいわば小島に漂流した遭難者も同然だ。いまは戦争のことなど忘れて協力しあい、生き延びることのほうが大事なんじゃないのか? 見知らぬ地で無駄に骨を埋めることが騎士道ということではあるまい」
アルテマの説得に、なにも言い返すことができないクロード。
たしかにこの地で雌雄を決したとて、誰に栄誉をもらえるということはない。
人知らぬ地で、誰に見せつけることもなく宿敵を倒すなどといった奥ゆかしい伝説も悪くはないが、自分的にはしっかりと人目につくところで勝利したい。
そしてこれ以上ないほどの喝采と誉れを、聖王国国民全員に浴びせられたい。
そのためには決戦の地は我が故郷ラゼルハイジャンでなくてはならないのだ。
「話はすべて私がやろう。お前は矢面に立つことはしなくていいし、立場もうまいこと取り繕ってやる、どうだ?」
「ふ……」
クロードは目が覚めたとばかりにキザったらしく笑うと、
「いいだろう。貴様の話にのってやるぞアルテマよ!!」
言って剣を鞘ごと外し、地面に落とした。
カチャンと軽い音がした。
「ではアルテマよ。まずは帝国との戦況を教えてもらおうか? 私が世界を渡ったあの日から、聖王国はどうなっている!?」
この15年間、夢に見るほど気になっていた。
ともすれば、とっくに戦争など終わってしまっているかとも思ったが、自分以外、世界の時間はほとんど流れていないらしい。
自分がこっちに渡ってきたとき聖王国はちょうど水門の街を帝国に奪還されて、やや押し戻されていたはずだ。
その状況に加え、俺という超優秀な指揮官を失った聖王国はもしかしたら総崩れになってそのまま全軍撤退などと事態に
何はともあれ、まずはあの日からの状況が知りたかった。
「そうかわかった。……ではその情報料として、先に話した通り、偽島組とは手を切ってもらうことにしよう」
「は!?」
さっそく吹っかけてきたアルテマに、目が小さくなるクロード。
「いやいや、まてまて……だからそれはちょっとアレじゃないか? 高すぎやせんか?」
「いや、まずはこれを約束してもらわねば情報は渡せない。この蹄沢の土地を狙う彼奴等はもはや私にとってこの世界での戦争相手なのだからな。しかしお前は違うだろう? 私との停戦を約束したならば、もう奴らの側にいる理由はなくなるはずだ」
「そ……それはたしかにそうだが。しかし……いま俺は奴らに部屋まで借りている立場だ。バイト代ももらっているし……」
「急にみみっちいことをいうな……」
「俺だって言いたくはない。しかしこの世界で平均以下の平民として生きてきた俺にとって衣食住と賃金を保証してくれる雇い主はこの上なく貴重な存在。それを棒に振ることなど俺にはできん!!」
やれやれ……困った聖騎士様だと眉間を押さえるアルテマ。
しかしこいつはこいつで今まで色々苦労して生きてきたのだろうと思うと、むやみに無職になれとはいえない。
アルテマとて元一の家に居候している身。
面倒をみてやるわけにもいかない。
ここはやはり、こいつには自立していてもらわねばならない……。
「……だったらわかった。偽島組にはいていいよ。だが、私達の邪魔はしないでくれないか?」
「それが俺の仕事だぞ!?」
「しているフリをしていればいいじゃないか」
「馬鹿言うな!! それだとただのボンクラ社員だろうが」
そうじゃないのか? と言いたくなるのをぐっと堪えるアルテマ。
ここでコイツの機嫌を損ねるわけにはいかない。
「それは周囲をあざむく仮の姿。しかしその実態は敵側のスパイだったのだ……的な感じの立ち位置で暗躍してみるっていうのはどうだ? それはそれでダークヒーローっぽくてカッコいいじゃないか?」
「そ……そうか……? ちょっと待ってくれ」
聞いてクロードはうずくまり、なにやらブツブツ考えている。
やがてチーンという鐘の音とともに立ち上がり、
「オーケーだ。それで行こう」
と、いとも簡単に満足し、寝返りを承諾したのであった。
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