第83話 朝カレーと対策会議
一夜明けて――――。
朝ごはん(納豆、卵焼き、アジの開き、菜っ葉のお味噌汁、浅漬)を平らげたアルテマは、さっそく鉄の結束荘へと向かった。
元一と節子も一緒についてくるが、元一がやや辛そうにしているのを見て、アルテマは心配そうに言葉をかける。
「……大丈夫か元一。昨日あんなに無茶したんだ、今日はゆっくり休んでいてもいいのだぞ?」
「馬鹿言うな、これしきの痛み何ともないわ。それに今日寝ても本気で痛み始めるのは明後日くらいだろうから、もうどうでもいい……」
「ああ……まぁ……そうだな……」
アルテマにも経験がある。
若いうちは無茶の代償はすぐにでも返ってきたが、歳を取るにつれその反応が遅くなってくるのだ。
アルテマも向こうの世界ではオバ……熟女だったのでそれはよくわかる。
昨日、解散する前に今後の打ち合わせをした。
議題はもちろん、結界に封印したモジョとヨウツベの開放について。
いまのままでは開放した途端、悪魔たちが群がってきて昨日の二の舞いになる。
極力それは避けたい。
なので、先に二人の心の穴を埋めてからという順序になるのだが、それをするにはインターネットとやらを使えるようにしなければならず、それはつまり偽島組との全面戦争を意味していた。
アルテマ的にそれは望むところで、元一の許可さえ下りればすぐにでもあの青二才のケツを燃やしに行きたかったのだが、元一はそれを許可しなかった。
理由は、事態をこれ以上ややこしくしたくなかったから。
その判断は集落のメンバーでも賛否が分かれたが、何をするにも暴力ありきで話を進めていては解決するものも解決しないぞ、との大人の意見に押されて話しがまとまってしまった。
飲兵衛だけは(真っ先に猟銃を渡しときながら一体何を言っとるんだこの爺は)という目で元一を見ていたが、とうの元一は素知らぬ顔。
とにかく、ならばどう解決するかで頭を捻ったところ、アルテマに一つ妙案が浮かんだ。
それは――――、
「……おお?? なんだこれは、すごく香ばしい香りがするぞ??」
いつもの校庭へとたどり着いたアルテマは、一面に漂う美味しそうな匂いに鼻をひくひくさせる。
「これは……カレーじゃな。あいつら朝からカレーを食うつもりか?」
「昨日の晩から香ってましたよ? 一晩置いたカレーは美味しいですからね」
節子が微笑む。
それでも朝からイケるか? と、言わんばかりに苦い顔をする元一。
「あ、おはよ~~うアルテマちゃん。昨日は大変だったね、よく眠れた~~?」
鍋をまぜながら、ぬか娘が三人に手を振ってきた。
その前にはアニオタも座っていて、しょぼくれた顔でスマホをいじっている。
「あ、お、お、お、おはようございます、ゲンさんに節子さんにアルテマさん。き、き、き、昨日はお手数かけました」
「おう、別に構わん。お前も被害者だからな気にするな……しかし……」
アニオタとぬか娘は校庭の真ん中でテントを張ってキャンプをしていた。
寝床である校舎が結界で塞がってしまって使えなくなったからだが、それについては元一を含めてみな、自分の家に泊めてやると申し出たのだが、二人はその誘いを断ってきた。
『ぼ、ぼ、ぼ、僕たちは、この名前が示す通り、て、て、鉄の結束で繋がれているでござるよ。そ、そ、そんな仲間が囚われているのに、じ、じ、自分たちだけ暖かな布団で眠るわけにはいかないでござる』
『そう。だから今日は私たち、見張りも兼ねてここでキャンプすることにするわ。何が起こるかわからないしね』
そうして二人は結界が張られた校舎の前で、中にいる二人を見守るように一晩を明かしたのだ。
「……やたらお菓子の箱が散らばっておるし……釜戸はともかく、なんじゃあそのキャンプファイアーの跡は。……お前らもしかして楽しんでなかったか?」
プチ宴の跡を見て疑いの眼差しを向ける元一。
「え? い、い、い、いやその……こ、こ、こ、これは違うんだな」
「そ、そうよ、これは決して『焚き火を焚いたらテンション上がってついインスタ映えを追求』したわけじゃないから!!」
「いやまあ……元気なら別にいいんじゃが」
疑いの眼差しを向ける元一。微笑む節子。
アルテマは、
「うま!? なんだこれ!??」
と、カレーを味見して尻もちをついている。
そのうちに、
「おお~~い、揃っとるか~~~~?」
飲兵衛、六段、占いさんの三人も集まって、ここにまたメンバーが勢ぞろいした。
――――
空に向かって呪文を唱えると、反応はすぐに返ってきた。
からんからんからん。
黄金の鈴が音色を奏でる。
ジルが応答してくれたようだ。
みなの前に開かれる異世界の映像。
そこにはいつもの通り、穏やかかつ美麗なジルの立ち姿が、と思いきや、
「え……あ……? し、師匠……!?」
そこに映ったのは、質素な板の間で大の字になって眠るボロボロに汚れたジルとルナの姿。
重なり合いつつ、だらしなく涎をたらし寝返りをうつ彼女たちを見てアルテマは、
「し、し、し、し、師匠っ!! な、な、な、な、なんて格好で応答してくれるんですか!! はしたないですよ師匠!! ししょーーーーうっ!!!!」
バンバンと地面を叩き、慌てふためく。
『むにゃむにゃむにゃ……でもんず……ほ~~る……むにゃ……』
どうやらこちらの呼び出しに寝ぼけて反応してしまい、本人たちの気付かぬまま、醜態を晒してしまっているようだ。
はだけた薄布寝巻きからチラリと見えるルナの太ももと尻尾。
アニオタは滝のように鼻血を流しながらスマホのシャッターを連射していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます