第66話 世界の終わり
げらげらげらげら。
乾いた夏の夜空にみなの笑い声が吸い込まれていく。
飲兵衛の家に集まった集落の一同は、今朝の騒動を酒の肴に
「なんや、そないにおもろい事しとったんかいな。だったらワシも見に行けば良かったで……ヒック」
「飲兵衛と六段は二日酔いで昼まで寝てたからね。残念でした」
「しかし見せてあげたかったですよ、偽島のあの情けない顔」
「しかし、街へ繋がる唯一の道を破壊するとは……奴らもなかなか無茶をする連中だな」
「木村の馬鹿が言うにはコッチ系の会社らしいからの」
元一が頬に一筋指を這わせてみせる。
そのスジの喧嘩傷を表現しているようだがその顔には微塵の怯えもなかった。
「ほお。今どきまだあるんやな、そんな会社。……まあ、ワシらの若い頃は土建屋っちゅうたら大体これもんやったけどな。最近じゃ珍しい。」
「……飲兵衛……それは偏見だ……むにゃむにゃ」
「しかし……実際どうするんじゃ? 道が通れんと外への行き来がやりずづらくなるが……」
「べつに問題ないじゃろう。元々わしらは自分らでほぼ自給自足が出来とったからの。どうしても外に用事があるならワシが山道を護衛して歩いてやるわい」
「いや、私らじゃなくてな、悪魔憑きの患者らがこっちに来れんだろうと言う話をしておる。私は別にたいして困らんが、アルテマは不都合なんじゃないかの? 魔素の供給が絶たれるぞ?」
「……ま、まあ……確かにそうだが、いざとなったら元一に頼んで連れてきてもらうしかないな……。ま、アミュレットのおかげでまだ少し余裕はあるが……」
「い、い、い、異世界へ届ける物資は、ど、ど、ど、どうするんです? 通販するにしても宅配便が来られないでござるが」
「局止めにしてもらえ。届けばみんなで取りに行こう」
「に……荷物持って山道を登るの……?」
「それよりもジルはんからその後の報告は来たんかいな? 実際、薬が効いたんかどうか確認出来んと運ぶもクソもあらへんで? ……ヒック」
「師匠からの連絡はまだだ。皇宮からザダブの街まで早馬を飛ばしても三日はかかる。そこから処置を始めて……結果が出るのはまだ先だろうな」
「そうか、ほんならその間に川を渡るボートでも手配しよか? それなら重い荷物も患者はんも楽に運べるやろ? ……ヒック」
「渡し船か、それはいいな風情もある」
「せやろ? 知り合いに船が趣味ってやつがおるさかい、連絡取っとくで?」
などと酒と料理を囲んで思い思いに相談し、何となく今後の方針が決まった。
つまり、道など無くとも誰もさして困らない。
なので偽島組の立ち入りとソーラーパネル工事は今後も変わらず拒否し続けると言うことだ。
そしてその日から二日後の深夜――――、
海外有名ゲーマーとのFPS頂上決戦に挑んでいたモジョのモニターに、突如『通信が途切れました』の文字が浮かび上がる。
そしてゲームはタイトル画面に強制的に戻されウンともスンとも言わなくなった。
震える目でOS画面のアンテナアイコンを確認すると、そこには無情に浮かぶ✕の赤マーク。
しばしの沈黙。
やがて飲み込んできた現実。
「ぬ……ぬぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉっ!!!!!!!!」
怒りと絶望の感情に支配されたモジョが、モンスターの如く暴れ出す。
――――バンバンバンバンッ!!!!
キーボードを力いっぱい殴り付け奇声を上げる。
衝撃でボタンが外れ飛び散るが、そんなことはお構いなしに叫び狂うモジョ。
側で寝ていたぬか娘は突如降臨した破壊神に慌てふためき驚いて、とりあえず階下へ避難したものの、一階の男子部屋でも似たような騒動が巻き起こっていた。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕が楽しみにしていた深夜アニメが観られなくなったでござる~~~~~~~~っ!! 回線が、わいふぁいが切れているでござる~~~~~~!! これは世界の終わり、この世の終焉でござるかーーーーーーっ!!??」
「ど、動画が……動画がアップ出来ないーーーーーーっ!! 再生数が、ただでさえ伸び悩んでいた再生数がーーーーーーーーーーーっ!!!!」
涙を撒き散らし転がるアニオタに、頭を抱えもがき喘ぐヨウツベ。
どうやら突然ネット通信が繋がらなくなったようだが、原因はわからない。
ただ最近の若者、とくにこの三人のような『電脳世界こそ我が
二階からはいまだモジョの叫び声と破壊音が聞こえてくる。
これはえらいことになった……と、ぬか娘は愛用のネコ柄刺繍の蕎麦殻枕を握りしめ、とにかく騒動に巻き込まれぬよう安全な場所を探して校舎内を右往左往するのだった。
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