暗黒騎士様の町おこし ～魔族娘の異世界交易～

第54話 それぞれの望み

『うぅぅ……すみません……つい出来心で……』

　やってしまいましたと目を潤ませ、ジルが下を向く。

「まったく……油断するとすぐ生贄を持ち出してきおる。そう軽々しく命を犠牲にするもんじゃないぞっ！！」

　少年を引っ込めさせ、憤慨する元一。

「まあまあ、これも異国の文化じゃ。そこはあまり言う気はないがな、しかし……わたしらも関わるからには、あまり物騒な真似は控えてもらいたいもんじゃ。これは干渉ではなく、お願いじゃ」

　占いさんも帝国の風習文化に配慮しつつ、やわらかく抗議する。

「開門揖盗（デモン・ザ・ホール）を始め、帝国が使う暗黒魔法は悪魔の呪文だ。ゆえに生贄を捧げればその効果は倍増し、多少の無理も通るのだ。師匠も焦っていたのだ、どうか軽はずみな行動を許して欲しい」

　ジルとともに頭を下げるアルテマ。

「……なんか万引きで捕まった親子みたいだね」

　その光景を傍から見て、ぼそっとつぶやくぬか娘。

「……ともかく、いくら融通が利くようになるとしても生贄はダメだ。今後ともそれだけは守ってほしい。でなければワシらも協力は出来ない」

　これは大事なことだと敢然と言い切る元一。

　他のメンバーも異論はない。

『……はい……もう二度と致しません。ですが……そうなれば薬の転送はどうなるのでしょう？　こうしている間にも一人、また一人とか弱いものが犠牲になっております』

「やはり、手探りで探して行くしかないでしょう……。頑張りましょう師匠！！」

　落ち込むジルに励ますアルテマ。

　そんな二人にモジョが意見を言う。

「……むやみやたらに探しても時間がかかるだけ、ここは皆に欲しいものを聞いてみたらどうだろうか……」

「そうだね、みんなの欲しいものを全部集めてもらえばきっと反応してくれるよ」

「うむ……まあそれも一理あるな。ではみんなそれぞれに望みを言ってみてくれ。なるべく師匠と気持ちを合わせてな」

「……気持ちを合わせるってなんや？　……ヒック」

「師匠がこの薬を欲しいと思っているのと同じレベルの感情と言うことだ」

「……かなり欲しがっとるように見えるがの」

　是が非でも手に入れたいと、薬がパンパンに詰まった薬局のビニール袋から目を逸らさないジル。

『それはそうです。だって国民の命がかかっているんですもの。前回のお水は半信半疑でしたので、さして価値の無い不変の黄鉄でも交換できましたが……今回は期待が強いので……』

　申し訳無さそうにジルが目をつむる。

「……なるほどの。転送出来ない理由にはジルさんの欲も入っていると言うことか……」

「と、なると……我々も不本意ですが、ジルさんに合わせた欲望をぶつけねばなりませんな」

　全然不本意に思ってなさそうな顔でヨウツベがニヤける。

　その後ろではアニオタもソワソワと何やら思案している。

「うぬう……。そう言われてもな。ワシは単に困っている者を助けたいと思っているだけだし、見返りなど別に求めとらんぞ」

　困ったように元一がうなる。

「いや、それではダメだ元一よ。金目の天秤は人の煩悩に敏感だ、嘘をついても見透かされる。ここは正直に望んで見てくれ」

「いや、嘘ではないぞ？　ワシは本心から……」

　遠慮はいらないぞと、みなが求めているものを聞き出そうとするアルテマ。

　そこに、

「んんんんんんのぉぉぉおおぉぉぉぉぉおおぉおぉぉ猫耳美少女の脱ぎたてパンツ～～～～～～～～っ！！！！」

　突然、考えに考え抜いていたアニオタが煩悩のままに噴火した。

「……そう、ああゆう感じに思い切ってな……いや、内容はともかく……煩悩のさらけ方としては満点だ」

　そんなアニオタを指さしつつ、顔を引きつらせまくりながら、それでもお手本にせよとアルテマは皆を見回した。

「そ……そうなのか……うぅむ……悪魔の呪文だけに、そうなのか、そういうことか……」

　煩悩をさらし、欲を満たす事を代償に望みを叶える。

　なるほど、悪魔らしい恐ろしい性質を持った呪文だなと元一は汗を拭った。

　みんなも、そんなみっともないアニオタを見つめ言葉を失っていたが、悪魔に対する礼儀としてはそっちが正解なんだろうか……と考えをあらため、それぞれに煩悩を掘り起こしてみることにした。

　そしてしばしのシンキングタイム。

　やがてみなの考えがまとまりはじめる。

「んじゃワシはやっぱり酒や！！　異世界の美味い酒が飲みたい……ヒック」

「わたしは……そうじゃな、異世界の魔法具……魔法の杖なんか興味があるのう」

「私は断然可愛いもの！！　異世界のタル。タルがいい、タル！！」

「……わたしはゲームだな。異世界のゲームがいい。カードでも将棋的なやつでも何でもいい……」

「ワシは……武術書だな。異世界の武術に関する文献があれば読んでみたいな」

「私も良いの？　……だったらそうね、美味しいお野菜が良いわね。そちらではどんな食材を食べているか興味があるもの」

　飲兵衛、占いさん、ぬか娘、モジョ、六段、節子、とそれぞれに欲しいものを順に言っていった。

　それをせっせとメモるジル。

「後はヨウツベと元一だけだな？」

　ほれ、恥ずかしがらずに申してみよ、とアルテマが二人を見る。

「ん～～～～僕はそうですねぇ……なにか異世界の風景が欲しいですね。絵画とか」

「うむ……ワシは……アルテマ」

「ん？」

　言ってアルテマをジッと見てくる元一。

　何だと見返すアルテマに、

「ああ、いや何でもない。……そうじゃな狩人の道具とかがいいかな。銃……はさすがに無さそうだし、弓矢でいい。ワシも多少は扱えるしな、興味はある」

『……わかりました。では最後にアルテマ、あなたの望みを聞かせてください』

　全ての注文を書きとめ、最後にジルはアルテマの望みを聞く。

「そうですね……私は――――」