第53話 不釣り合いの謎

「――――開門揖盗デモン・ザ・ホール

 し~~~~ん。


「――――開門揖盗デモン・ザ・ホール!!」

 し~~~~~~ん。


「――――開門揖盗デモン・ザ・ホールっ!!!!」

 し~~~~~~~~ん。


 それから品を変え量を変え、さまざまな物で試してみたが開門揖盗デモン・ザ・ホールは全くピクリとも反応しなかった。


『こ……これだけ用意しても……ダメとは……なかなか……困りましたね』


 ゼエゼエと息を切らして困り果て汗をぬぐうジル。


 不変の黄鉄おうてつ(金)がダメなら退魔の白鉄はくてつ(銀)それもダメなら灼熱の輝鉄こうてつ(銅)これもダメなら竜の冷眼ひやしめ(ルビー)と、そのつど倉庫から運んできた彼女はもうヘトヘトである。


「う~~~~ぬ……しかし、これだけの物を試しているのです。どれか一つ反応しても良さそうなものを……。これは……や、やはり私の魔力がまだ足りてないと言うのか~~~~~~~~っ!??」


 ぬおおぉぉ……と、頭を抱えて自責にもがくアルテマ。


『……いいえ、そうではありません。さきほども言いましたが、これは単純に物の価値が釣り合っていないだけなのです』


 そんなアルテマを慰めるジルに、飲兵衛が声をかけた。


「……せやけどジルさんよ。そちらの貴金属で充分代金には釣り合ってると思うんやけどなぁ……。金、銀、銅に宝石まで、むしろ釣り合って無いのはこっちの方やで?」

『……ですが反応しないとなると、金目の天秤が不釣り合いを感じているということです』

「……その基準が、金銭の価値ではなく、人の感情だと言うことだったな」


 モジョが会話に続き、何やら考え込む。

 そして一つ思い当たったように顔を上げると、


「……おい、お前ら。……もしかして不満を持っているのはお前らじゃないだろうな?」


 そう言ってヨウツベとアニオタを睨んだ。


「はっ!? い……いや、何を言ってるんだモジョ、お、お、俺たちそ、そ、そんな不満なんて持っていないよ!??」

「そそそ、そうですよ!! ぼぼぼぼ、僕たちはべ、べ、べ、別に……思ったより儲からないとか、じゃあ、どうせなら異世界萌え萌えチックなアイテムと交換できたらいいなとか、そ、そ、そ、そんなこと全然考えてないでござるよ????」

「……本音がダダ漏れだろうが」


 慌てて取り繕う男二人に、犯人見つけたりとジト目を向けるモジョ。


「ああ~~、そういえばこの間の水のお礼が一万円ぽっちだってボヤいてたよね、これじゃカメラも限定フィギュアも買えやしないって。お二人さん?」


 ぬか娘の証言も追加され、


「ほう……ではお前らが原因で送れないってことでいいな?」


 ボキボキと六段が指を鳴らした。


「い、いやいやいやいや!! ちょっと待って下さいよ!! たしかに不満は漏らしましたけど、それはしょうがないじゃないですか!! 思っちゃうもんはどうしようもないですよ!!」

「そ、そ、そ、そうなんだな、そうなんだな!! 暴力反対なんだな!! 時代錯誤の昭和根性は引っ込めるでござるんだな!!」

「ええい、うるさいわ!! お前らの醜い煩悩が我らの邪魔をしとるのだ!! そこになおれ、このワシが成敗してくれる!!」

「ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

『待ってください!! そのお二方の言うことは決して間違っていません!!』


 二人に粛清を食らわせようとした六段を止めたのは、他ならぬジルだった。


「む、しかし、こいつらの邪な感情が原因で迷惑しているのはそっちだろう?」

『いいえ、迷惑だなんて。品を用意して頂いただけで大感謝しなければならないのはこちらです。……それに釣り合う品を用意出来ない私の方が悪いのです』


 そしてジルは深々と頭を下げ、涙をにじます。

 それを見て慌てふためきオロオロとする、すっかり悪役にされてしまった男二人。

 ジルはそのまま涙をふきつつ部屋を出ていってしまった。


「あ~~あ~~……、泣かしちゃった……」


 責めるぬか娘に、ますます狼狽える二人。


「お前らちょっと向こうに行ってろ。ここにいなければおかしな感情もなくなるだろう? どうだアルテマ、これでもう一度試してみては?」


 元一が二人をシッシと追い出してアルテマに聞いてみる。


「いや……一度価値が確定したらそうは変化しない。それに実は……こういうのはよくある事なのだ。術者どうしの価値観、その物を用意した人間の価値観、作った人間の価値観……転送させる物に関わった者、全ての思いを汲み取って金目の天秤は傾きを決める。だから、その都度、場所や状況、品が変化するたび、等価となるものを我々は手探りで見つけねばならんのだ」

「ほ、ほら!! アルテマちゃんもそう言っているでしょう? 僕らだけの責任じゃないですよ!! みんなの責任です、連帯責任です連帯責任!!」


 暴力反対、風評被害と書かれた旗をパタつかせ無罪を訴える男たち。

 そうこうしているうちにジルが部屋に戻ってきた。


「あ、師匠、戻ってこられましたか。大丈夫でしたかって……な、何ですかその男の子は……?」


 目を腫らして戻ってきたジルの傍らには、なにやら見覚えのある少年が。

 彼は色々観念した表情で、神妙に立っていた。


『かくなる上は…………やはり生贄が必要だということなのです……うぅぅぅ……魔神様どうかでお気持ちをお沈めください……ヨヨヨ……』

「「だからそれを止めろーーーーーーーーっ!!!!」」


 全員の声が校庭に響き渡り、セミが一斉に鳴き止んだ。

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