第43話 また魔力を求めて④
「ほんならな、さっそくマッサージしたるさかい、ちょっとこの目隠ししてうつ伏せに寝てくれんかのぉ?」
居間に敷いたヨガマットの上。
そこに婆さんを寝かして、目隠し代わりの手ぬぐいを渡す飲兵衛。
「おやぁ……いつもは目隠しなんてぇぇぇぇ……してたやろうかぁぁぁ???」
プルプル震えながら首を傾げるマチコ婆さん。
「してたしてた、ええから目つむって大人しくしててや」
もちろんいつもは目隠しなんてしてないが、そこはそれ、半ばゴリ押しで目を隠させる。それを確認して、アルテマとぬか娘、モジョの三人は隣の部屋から抜き足差し足、近寄ってきた。
わざわざ目隠しさせたのは、この集落メンバー以外の者にアルテマの姿と、これから始める悪魔退治を見せたくなかったからである。
「しかし、あれやのお……お前さんとこの孫、もう高校生やってか? いやぁ~~月日が立つのは早いもんや」
適当な世間話をしながら腰をもみもみ、アルテマに目線を送る飲兵衛。
(……ほんまに大丈夫かいな? このあいだみたいな物騒な悪魔出てきたりせえへんやろな? それは勘弁やでぇ?)
アルテマから、こっちの医学でも治らない患者は悪魔憑きの可能性があるからと紹介を頼まれた。
が、正直、そんな悩みを抱えている者などそこら中にごまんといる。
なので適当に紹介してやろうとしたのだが、どうやらあまり適当すぎても具合が悪いそうで。というのも、症状の強弱によって取り憑いている悪魔レベルも変化するというのだ。
魔素全開のアルテマならば、どんな悪魔が出てきてもワンパンで倒すと豪語しているが、生憎いまはその魔素が乏しい状態。
ぬか娘のガラク――――お宝で、ある程度戦えるほどには回復したが、それでもあまり強い悪魔が出てきても困るので、ほどよく、いい感じの悪魔が取り憑いていそうな、都合のいい患者はいないかと相談されたのだ。
とは言っても、そんなさじ加減なぞわかるはずのない飲兵衛は、とりあえず六段の病状と、出てきた低級悪魔の具合を参考にして、このマチコ婆さんを選んでみたというわけだ。
当然、本人には悪魔やアルテマの存在など、ややこしくなるので説明していない。
あくまで飲兵衛が治療し、奇跡を起こすというシナリオで事は進められた。
(大丈夫だ、ちゃんと調べた。取り憑いているのはいいカンジの低級悪魔だ。いいぞ飲兵衛、さすがの目利きだな)
「高校行くんは孫やないでぇぇぇぇ……ひ孫やでぇえぇ~~。孫はも~~う、役場で奉公しとるでぇぇぇぇぇ」
「そうかそうか大変や大変や、おめでたいなぁ!!」
適当に大声で返事をしながら、アルテマに『今だやれ』と目配せをする。
アルテマはその声に被せるように呪文を唱えた。
「闇に紛れし魔の傀儡、その怨霊よ。姿を現し、その呪縛を火雷とともに溶かせよ。――――
――――パアァァァァァッ!!!!
マチコ婆さんの腰に光が宿る。
と、次の瞬間、
――――バシュゥ!!!!
『ギャギャギャギャギャ!!!!』
奇妙な叫び声とともに、何かがその光の中から飛び出してきた!!
「――――おぉっと!?」
思ってたより若干大きかったそれは、ドンっと畳に着地すると、ギョロリとその首をアルテマに向けた。
硬そうな殻に覆われた長く平べったい胴体。
いくつも生えた無数の足。
ムカデとゲジゲジを足して割ったようなその低級悪魔は、黒光りする身体をくねらせ威嚇するようにうねっている。
その大きさは、長さにして1メートルちょいくらい。
「うぉぉぉぉ!?? なんやあれ、気持ちわる!??」
それを見て、思わず鳥肌を出しながら叫んでしまう飲兵衛。
「ん~~~~? なんや~~なんか出てきたんかのぉぉぉ飲兵衛さんやぁぁ? なんだか騒がしいのぉぉぉ……?」
「ああ、いやいやいや、ちょっとな!! ちょっとムカデがな!! はははっ!!」
「なんやぁムカデかいなぁ。……ムカデと言えばぁ……戦時中はムカデもご馳走やってなぁ……剥いて食うと甘くてなぁ、おいしいんやでぇ?」
「そ、そうかそうか、せやけどこのムカデは食べられそうにないなぁ!!」
アルテマはその低級悪魔を見据えると、攻撃呪文を素早く唱える。
(多少、予想より強そうな感じだが問題無い!!)
「――――
詠唱とともに赤黒い炎が出現する。
それはアルテマの小さな手の平に収まるほどの小さな火。
前回の、山羊の悪魔を倒したときのそれとは比べ物にならないほど小さな物だったが、それでもこの低級悪魔になら充分通用するとアルテマは目算する。
『ギャギャギャッ!!!!』
危機を察して、俊敏に逃げ出すムカデの悪魔。
(む、いかん!! ぬか娘、モジョ、逃がすな取り押さえろっ!!)
目で二人に合図を送るが、
二人は部屋の隅に寄り添って縮こまり、手でバッテンを作っていた。
どうやら生理的に無理なようである。
(おい、ちょっと――――!?)
その一瞬の隙をついて、ムカデの悪魔は窓から外に飛び出して、
――――ガサガサガサッ!!!!
草むらに飛び込んで消えてしまった。
「ば、馬鹿者ーーーーっ!!」
叫び、大慌てでそれを追うアルテマ。
二人も嫌々ながら、それでもアルテマが心配なので一応付いていく。
「んぁ~~~~? やっぱり誰かおるんかいのぅぅぅぅ……??」
「おらんおらん、テレビやテレビ~~。なんか洋画のホラー映画やっとるみたいやで!! おもろいなぁははは!!」
そんなドタバタな三人を見送り、飲兵衛は意味のないマッサージをそれでも続けているのだった。
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