第37話 大成功?
『ア、アルテマ……さま……?』
ジルに連れられ、3人の若い見習い神官が部屋に入ってくる。
彼らは
「あ~~~~すまん。わけあっていまは子供返りしている……まぁなんだ、詳しいことは後で師匠に聞いてくれ。とにかく私は生きている、心配かけてすまなかったな」
同じことの繰り返しになるのを恐れ、アルテマは説明を未来のジルに丸投げし、再会の挨拶もそこそこに本題に入ろうとする。
「――――……そういうわけで、いまから力の続く限り、そちらに水を移送する。お前たちはそれを汲み取り、兵士たちに分配する作業を頼みたい」
『は……はぁ……そ、それは……も、もちろん……構いません、けど……?』
ちっちゃくなったアルテマに異世界の住人。そしていきなりの水の援助と、濃い情報目白押しの展開に、どれからどうリアクションを取っていいかわからず彼らは目を泳がせまくる。
『語りたいことも多いでしょうが、今は何より先方の好意を受け取ることが先決、時は待ってはくれません。兵士も勝機も待ってはくれません。明日には奇襲軍も出陣するでしょう、それまでに水の分配を終えます。あなたたち、手伝ってくれますね?』
言いつつジルは、山のように積まれた木桶を彼らに指し示した。
『は……はぁ…………。はぁ?』
その木桶を両手に、いまいち何が始まるのかわからないといった顔の彼ら。
アルテマの手には、何やら先に穴の開いた槍? のような物が握られて、そのお尻から長くて太い白色の綱が伸び、それがはるか奥にある赤い箱へと繋がっている。
その赤い箱には『消火栓』と書かれてあったのだが、彼らにはもちろんそれは読めなかった。
「お~~~~い、もういいのかぁ? 始めるぞぉ~~~~!?」
消火栓の蓋を開け、バルブに手をかけながら六段が叫んでくる。
「うむ。いいぞ、始めてくれ!!」
少し緊張した顔でアルテマは承知を伝える。
六段は、錆びて固まりかけているバルブに無理やり力を加え回し始める。
――――メシメシ……ビキッ。
と、バルブの軸が軋み、赤い錆がポロポロとこぼれ落ちてくる。
「……あのさあ」
それを見ながら、ぬか娘がモジョに尋ねる。
「……なんだ?」
「消火栓の水って飲めるの? ホースの水の方がよくない?」
「……5000人分の飲水だぞ? いちいちホースでなんか出してたら日が暮れる。……それに消火栓の水は普通に水道水だ……もぐもぐ」
おにぎりの残りを食べながら答えるモジョ。
さてどうなることやら、とすっかり見物客モードである。
「へぇ~~そうなんだ。知らなかった」
「……まあ、何十年も使われてなかっただろうから、錆やカビは多少あるかも知れんが、それも出してれば流れるだろう。……それに、なんとなくだが、異世界の人間は少々の濁りくらい何とも思わないように思う」
「あ~~~~かもねぇ……中世っぽいもんねぇ」
水の質も悪いと言っていた。
その言葉から、大体の浄化技術が分かった。
そこからの衛生観念も想像できた。
などど話しているうちに、
「ぐおりゃぁっ!!」
――――バキッ!!
鈍い破壊音とともにバルブが回転した。
「よっしゃあ、開いたぞ!!」
汗を吹き出し、キコキコと全開まで回す六段。
それに伴い、もこもこと、ホースが膨らんで水が進んでくる。
「来るぞアルテマ、呪文を唱えぃ!!」
タイミングを見計らって元一が合図を出す。
「了解!! 師匠、お願いします!!」
『はいっ!!』
『『――――
散水ノズルから水が吹き出ると同時に、再び転送用のホールがまばゆい銀色の光柱とともに開けられた!!
どばっしゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!??』
『うわっぷ、ぶはっあぶぶぶぶぶぶっ!!』
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『ぶくぶくぶくぶくぶくぶく』
光の破片とともに、世界を水が飛び越える。
そしてその勢いを殺すことなく、ジルと見習い神官たちに襲いかかった。
垂れることなく一直線に伸びた水の筒は破城槌のごとく部屋の全てを打ち壊し、薙ぎ払っている。
「やった!! 成功じゃ!!」
「んぐぬぬぬぬ……!!」
無事、異世界へと届けられている放水砲。
アルテマはその威力に押されまいと、必死に足を踏ん張って開いた亜空の穴へと狙いを定めてノズルを支えている。
「成功……なのかなぁ……?」
苦笑いのぬか娘。
向こう側では水の大砲に撃たれた四人が大パニックになって溺れている。
「まぁ、それでも届いているんや。成功は成功やろうて、かかかか、ヒック」
散乱する桶、額縁、調度品。ひっくり返る神官たち。達観して全ての騒ぎを受け入れているジル。
そんな彼女らを眺め、飲兵衛は愉快そうに酒を傾けた。
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