第36話 異世界の戦況
「「水門奪還作戦?」」
ジルの言葉を受け、アルテマ含むみんなは声を揃えてそれを復唱する。
『はい、聖王国に奪われたザダブ水門。それを管理しているザダブの街さえ奪還できれば、そちらの援助無くとも、とりあえずは我が国の水問題は解消されます』
「しかし、奪還といっても一度攻め落とされた街なのだろう? そう簡単に出来るのか?」
元一が疑問を口にするが、ジルは心配無用とばかりにアルテマを見る。
『ザダブ水門を占領されたのは、アルテマ討ち死による士気低下が大きな原因でした。本来の軍事力で言えば帝国は聖王国にけっして劣るものではありません。ただ、水門を止められ水不足に陥ってからは、今度はそれが原因で兵士が思うように戦えず、連敗が続き、今は防戦一方となっております』
「……ふむ、渇けば戦争どころでは無くなるからの」
『はい。ですがこうしてアルテマの無事が確認されたいま、この知らせを兵士に届ければ、彼らはきっと奮起するでしょう。援助していただく水は、そんな彼らが充分に動けるだけの量で良いのです』
「なるほど、最低限の飲水と、アルテマのカリスマさえあれば後は自分たちで解決すると言うことだな? いいぞ、それならばワシらも協力させてもらうぞ」
あくまで問題解決の主力は自分たちだと、戦う姿勢を見せるジルに、六段はその心意気や良しと言わんばかりに大きくうなずいた。
「して、具体的にはどのくらいの水が必要なんや……ヒック」
「……その軍隊とは、どの程度の規模なんだ……人数は?」
尋ねてくる飲兵衛とモジョに、
『……恐らく、5000くらいの中隊になるかと』
しばらく考えたジルが答えた。
「5000……失礼だが、重要都市奪還にその程度で……大丈夫なのか?」
帝国の大半の水資源を司るザダブの街。
当然、そこを守る聖王国も重要拠点としてかなりの防御を固めていると想像出来るが……?
それとも、異世界の国は現世と比べて人口が少ないのかも知れないなとモジョは考える。
『いえ、本来ならば聖王国側は30000の兵士で守りを固めていました。ですが現在、我が第二王子が指揮する軍隊が陽動として、ザダブよりもさらに聖王国側にある街の奪還に出撃しております』
「陽動!?」
アルテマが目を剥き、ジルへと聞き返す。
『ええ、第二王子は自らを囮に聖王国に深く切り込み、その背後を餌にしてザダブの兵士をおびき出そうとしています……。そしてその間に、手薄になったザダブへと選りすぐられた騎馬隊が強襲をかけるといった手筈です』
「なんと……ではすでに奪還作戦は始まっているのか!?」
と六段。
『はい。なので現場指揮の皇子たちはもちろん、総指揮に当たられている皇帝もいまはご挨拶することが出来ません。どうかご無礼のほど、ご理解下さい』
「いや、いい、いい。挨拶なんて……そもそもワシらはただの平民じゃからの、皇帝陛下などとは恐れ多くて逆に困るわ」
苦笑いする六段。
まったくだとうなずく一同。
アルテマは青ざめた顔でジルに詰め寄る。
「し、しかし、それでは第二皇子は――――エフラム皇子はどうなるのです!? このままでは敵軍に包囲されてしまうのでは!?」
『ですから、決死の強行です。そうでもしなければ我が帝国にもはや勝機は無いとの決断です』
「……なんてことだ、私が……私が不甲斐ないせいで!!」
再び地面を殴り付け、己の無力を恥じるアルテマ。
「そんな危険な囮任務に、なにも皇子自身が行かなくても……」
「……そのレベルの大将首でなければ陽動出来ないと判断したのだろうな」
「それだけ必死ということなのね……」
ぬか娘とモジョが語り合っている。
「皇子軍が敵と接触するのはいつぐらいになりそうですか!?」
『……4日後には敵軍との戦闘が始まる予定です。ですが、補給もままならない状態の皇子の軍はそう長くは持たないとの見通しで、全滅も覚悟しなければならないでしょう。ですから残った我々はなんとしてでも水門を奪還し、民を救わねばならないのです。……しかし、』
そこでジルの顔が曇る。
『ザダブへの奇襲軍も、乾きと飢えで……とくに馬が走れなくなっている状況で、このままではとても作戦の成功は期待できないと、出陣前から、大臣や兵士の間で囁かれてしまっています……』
「そうか。どうやら、いま連絡がついたのは好機だったようじゃのアルテマよ」
元一がアルテマの頭にポンと手を置いた。
「その通りだっ!! 師匠、その不貞な大臣どもをここに連れてきて下さい!! 私が叩き斬り、兵のケツも蹴り飛ばしてくれましょうぞ!!」
皇子が命を張っているんだぞ!?
それを何を他人事のように!!
アルテマは真っ赤になって懐から果物ナイフを抜き、ブンブン振り回した。
『落ち着きなさいアルテマ。先程も申した通り、あなたの生存と、あなた方がもたらしてくれる水さえあれば全ては好転します。作戦はきっと成功するでしょう』
いまこのときアルテマの生存が確認できたのも、異世界の民たちと接触出来たのも、全ては魔神様のお導き。
ジルは確かな確信を以て、一同を見回した。
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