第21話 暗黒騎士の実力③

 ズンズンズンズン……!!


 悪魔の足音が通り過ぎていく。

 アルテマとぬか娘は、通りすがりの空き家へと入り込み、息を殺していた。


「行ったか……」

「……みたい」

「よし、今のうちに魔素が吸収できる物を探すんだ」


 アルテマは埃にまみれた部屋の中を色々物色し始める。


「探すったって……私には魔素なんてわかんないよ?」


 言われてアルテマは少し考え、


「魔素は人の感情からも生まれる。怒り、悲しみ、憂い、喜びなど様々な気持ちからな。そう言った思いが込められた物ならば、たいてい魔素は吸収出来る」

「……なるほど、それで占いさんの道具から?」

「そうだ。占いや祈りの対象になる物には特に溜まりやすい。信仰系のアイテムとかな。そういうのは無いか?」

「それなら仏壇とか」

「仏壇……祭壇の一種か? いいぞ、それはどこにある?」

「え~~~~と……多分、奥の座敷かなぁ? 私もこの家、入ったことないからわかんないけどさ」

「そういえばここに家主はいないのか? 随分、埃が溜まっているが……」

「昔は人が住んでたみたいだけど、もう何年も前に空き家になったみたい。この集落はそんな家がいっぱいあるよ?」


 座敷を探し、部屋を移動しながらぬか娘は言った。


「いっぱいだと? それは人が途絶えていると言うことか?」

「うん……昔はこの集落にも結構人がいたらしいんだけど、いまは私たちだけ」

「お前たちが住んでいるのも、かつての学び舎だったな……。どうして人が減っているのだ? 呪いか? それとも襲撃にでもあったか?」

「違う違う」


 おかしな解釈にぬか娘は苦笑いを浮かべて否定する。


「たんに田舎が不便だからとか、仕事を求めてとか……色んな理由でみんな都会に住みたがってるの。だからこんな山奥の村じゃどこでも人が減っていっているのよ」

「こんなに豊かな土地があってもか!?」

「だよね。そこんとこの価値がわからない人が多いのよコッチの世界って」


 やがてお座敷を見つけると、埃をかぶったままの仏壇もそこにあった。


「あった、あった。供養されてない、ラッキ~~♡ どうこれ、使えそう? ごほごほっ!!」


 フーーーーッと埃を吹いて自滅しながら、ぬか娘が聞いてくる。


「おお……うむ。魔素よ、我が元に集まれ」


 さっそくアルテマが手をかざすと、ほわっと弱い光が現れ、手に吸い込まれる。


「やった、すごいすごいっ!! いまのが魔素吸収?? これでオッケー? 戦えそう??」


 期待に胸膨らませ聞いてくるぬか娘だが、


「……いや、全然ダメだ……この程度では何の足しにもならん」

「あっちゃ~~……。さてはここの主人、いいかげんに信心してたなぁ……」

「……だろうな。他には無いか? べつに宗教に関係無くても構わないぞ。思い入れが強い物なら何でもいい」

「じ~~~~~~~~~~……」

「な、なんだ、私の顔をじっと見て。お、おい、やめろくっつくな!! スリスリするなっ!!」

「だってぇ~~私の気持ちも『思い』だよ。どうアルテマちゃん、感じる? 私の魔素、感じる??」

「や、やめろォ~~~~っ!!」


 しかし悲しきかな、ぬか娘の身体からホワホワと魔素の光が溢れ出す。


「げえぇ!?」

「あ~~~~やっぱりそうだ。見て見て、私のアルテマちゃんに対する思いが形になってる~~~~♡」


 そしてさらにちゅっちゅとアルテマの頬にキスをするぬか娘。

 するとさらに大きな光がその唇から現れる。


「どう? アルテマちゃん、どう? 私の思い、吸収してほら、吸収して!!」

「だからやめろぉ~~~~~~~~~~っ!!!!」


 段々と興奮して、いろいろ変なところを弄ってくるぬか娘。

 ドタバタと、暗闇でもつれ合う変態女性とイタイケな幼女。

 これはこれで大問題な話だが、いまは別の大問題が近づいて来ていた。


 ――――ズンズンズンズンっ!!!!


 悪魔の足音が徐々に大きくなってくる。

 どうやら騒ぎを察知されたらしい。


「まずいっ、は、離れろっ!!」

「あふんっ♡」


 ヨダレをたらし始めているぬか娘バカを蹴っ飛ばし、離れ、床に転がるアルテマ。

 その直後、


 ドカンッ――――バキバキバキャキャッ!!!!


 壁を破壊して悪魔ザクラウが飛び込んできた!!


『ちょこまかと見苦しいぞ暗黒騎士。観念して業火に……――――て、待てぃ!!』


 追い詰めたぞ、と勝ち誇る悪魔だが、すぐにその目が怒りに釣り上がる。

 目当ての暗黒騎士が、娘を置き去りにしてとっととその場から逃げ出していたからだ。


「ああんっ!! アルテマちゃん冷たい~~~~っ!!」

「悪魔よ、私の代わりにその娘をくれてやる!! 業火の贄にでも何にでも自由にするがいい!!」

『見くびるな!! 悪魔に妥協も代案もない!! 私の獲物はお前一人だ暗黒騎士よ!!!!』


取り残されたぬか娘を無視し、アルテマだけを追いかけていくザクラウ。


「だろうな。やはりコッチでも悪魔は堅物か!!」


 叫ぶと、アルテマは自らを囮とするように走った。


『我の魔力が欲しいのだろう? ならばかかって来ぬか、痴れ者よ!!』


 言われながらも、アルテマは自分の残存魔力を確認する。


 ――――まだだ、まだ全然足りない。


 奴を倒すにはまだまだ魔力が必要だ。

 どこかに、どこかにないか??

 深く、強い思いが積もったアイテムが!!


 やがて元一の家が見えてきた。

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