第20話 暗黒騎士の実力②

『……我を食らうだと? 面白いことを言う小娘だ。……よかろう、我が名は悪魔ザクラウ。闇と節度を司る者。いざ尋常に相手してやろう』


 ――――しゅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。

 音とともに、悪魔の姿が具現化する。

 黒山羊の頭に屈強な人の体。

 毛むくじゃらな身体のその大きさは二メートルをゆうに超え、手には歪な棍棒を握っている。

 アルテマは、慣れたようすで語りかけた。


「貴様があの婆の意識を封印したのか?」


 占いさんを指して尋ねる。


『ん? ……ほお……小娘よ、見抜くか。いかにもそうだが、もしやそれに文句があるのでは無いだろうな? 先に契約を無視したのはその婆の方よ』

「いや、文句は無い。それが契約というものだ」

『では、なぜ我を目覚めさせた? 我はもう現世との関わりを断ち、数百年の眠りにつくところぞ?』

「その前に私の用事を聞いてもらいたくてな」

『……………………』


 不機嫌に黙り込む悪魔に、アルテマは包丁を突き出して言い放った。


「その身を私に捧げ魔力となれ。さすれば輪廻の渦へと送ってやろう」

『それは魔法剣……。なるほど……ふふふ……久しぶりじゃのう。いいだろう、ヌシが勝てば好きにするが良い。しかし負ければ千年の時を地獄の業火に焼かれることになるぞ』

「言うことは、こちらの悪魔も大差ないな」


 アルテマは包丁を構えると、それが戦いの合図とばかりに悪魔が動いた。

 ――――ズンッ!!

 悪魔は手にした棍棒を大きく振りかぶると、


 ゴッ――――ドゴオォォォォォォォォォォンッ!!!!


 地面を大きく抉る、強力な一撃をアルテマに叩き込んできた!!


「アルテマちゃん!!」


 その迫力に押されながら、ぬか娘がアルテマの身を案じて悲鳴を上げる。


「馬鹿者、下がるんだ!!」


 危険を感じた六段がぬか娘を引っ張り、避難させる。

 他のメンバーも同じく下がる。


「甘いわ、うすのろ!!」


 しかし攻撃を見切っていたアルテマは、その一撃を間合いを詰めることで躱し、素早く悪魔の懐へと潜り込む。

 そしてそのがら空きの腹に魔剣と化した包丁を突き刺した!!


『な……なにぃ!! ぐわあぁぁぁっ!!!!』

「終わりだ、たわいない悪魔よ」


 勝利を確信するアルテマ。

 このレベルの悪魔など本来、彼女の相手にはならない。

 暗黒騎士とはすなわち、数多の悪魔を食らい、その能力を吸収した者を指す。

 異世界ではこんな雑魚よりも遥かに強大な悪魔を何体も倒してきた。

 ナイフ程度の刀身とて、そんな彼女の魔力を込めているのだ。

 その一撃に耐えられるはずがない。

 しかし、


 ――――ばきぃんっ!!


「――――は?」


 彼女の確信をあざ笑うかのように、魔法剣はあっけなく折れてしまった。


『ぐあぁぁぁ……ぁぁ……あ、あれ??』


 ノリで苦しんでいた悪魔もそれに気がついて声を止める。

 黙って折れた刀身を見つめるアルテマと悪魔。


「ええ~~~~~~~~……………と……」


 ゴクリとツバを飲み込むアルテマ。

 悪魔はハッと我に返り、


『き……貴様、まさか今のが魔法剣などど言うのでは無いだろうな??』

「いや……その、そのつもりだったんだが……」


 ダメだ、僅かな魔力でひねり出した魔法剣だけに、威力が思ったように上がっていなかった。


 うるうるとした目で悪魔を見上げるアルテマ。

 その目で全てを悟った悪魔が頭に怒りマークを山ほど浮かべながら言う。


『そうか……とんだ茶番に付き合わされたようだな。…………しかし、我が封印を解き、眠りを妨げた罪は茶番では済まぬ。……宣言通り千年の業火で払って貰うぞ』


 ――――ずごごごごごごごごごごごごご。

 と、オーラとともに再び棍棒を振り上げる悪魔。


「ぜ……全員、退避ーーーーーーーーっ!!!!」


 これはイカンと即時判断し、回れ右して全力で走り出すアルテマ。


「え? あ、あれ!??」


 それを呆気に見送る六段たち。

 残された彼らに、悪魔は問答無用で、


 ――――ドゴオォォォォォォォォォォンッ!!!!

 デタラメな威力の棍棒を打ち下ろしてきた!!


「「ぎぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」


 地響きに揺らされながら、六段たちも慌てて逃げ始める。


「ちょ、ちょっとアルテマちゃん!! どうなっているの??」


 血相を変えたぬか娘がテケテケ逃げるアルテマにすぐに追いつき問いただす。


「どうもこうも、計算違いだ!! 思ったより、私は全然弱かった!!」

「いや、見た目からしてそりゃそうよ!?」

「むむむっ!! しかし魔力さえ溜まればもっと戦えるはずだ、無いか? どこかに魔力の詰まったものは無いか??」

「だから、あの悪魔から吸収するつもりだったんじゃないの??」

「うむ。しかしその為にはやつを弱らせねばならん!! その為にもっと魔力がいるのだ!!」

「なにそのジレンマ~~~~!?」


 振り返ると、六段たちはとりあえず散り散りに逃げて無事なようだ。

 悪魔はズンズンと足音を鳴らしてアルテマを一直線に追ってくる!!

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