第7話 恥ずかしがって……? いやいやまさかぁ ~7月11日②~



 昨日はちょうど本屋に行った帰りに街中で、たまたまその場に俺が出くわした。

 だから俺も知っていた。

 そういう事があったっていう事は。


<そしたらシュンのやつ、助けに入ってきてさ、シュンのくせに>


 ひどい。

 せっかく割って入ってやったのにあんまりだ。


<足ガッタガタだったくせに>


 しょうがないだろ、俺はお前に技を掛けられる専門だぞ?

 喧嘩なんて出来ないもん。


<何かアイツ、私の事を彼女っぽい言い方するし>


 それもしょうがないだろ、だって咄嗟にあれしか思いつかなかったんだ。

 ちょうど買いに行ってたマンガの前巻でそういう場面があったのが、ふと頭をよぎったんだ。

 っていうか、なんか段々腹立ってきたな。


<「あっ、警察!」とか言って、戦わずに逃げるし>


 逃げずにどうする。

 相手はさも喧嘩し慣れてそうなヤツラだっただろうが。


<許可なく手とか引いちゃって>


 あの状態で「お嬢様、お手をお貸し頂けますか?」って許可でも得ろって?

 無理だろ緊急事態なんだから、そんな余裕俺にはなかったわ!

 それに手なんて、昔から何度も繋いでる。

 今更だろ、家に入るのに顔パスなのと同じだわ。 


<手にじっとり汗かいてたし!>


 しょ、しょうがないだろ!

 本当は手を繋ぐの、ちょっと緊張したんだよ!

 いつぶりだったと思ってる?!


<大体生意気なのよ! こっちのペースなんて完全無視で走るし>


 全力疾走しないと追いつかれるだろうがぁ!!


<あ、あんな……いつの間にか骨ばった手になってるとか、背中もちょっと大きいとか>


 こちとら成長期なんじゃぁ!

 ……って、ん?


<いっちょ前に私の事なんて心配ちゃってさ。シュンのくせに>


 ん?

 んんん?


 え、ちょっと待て、何でそんなに急にしおらし気?

 ちょっと待てよ、そんないじけたような、困惑しているような、でもなんかそれだけじゃない、この感じで言われたら――。


<あー、もうマジ何なの! 何なのさー!! もう意味わかんない! 今日はもう終わりっ!>


 カチッ


「え、……え?」


 気のせいだろうか。

 最後の方、まるで恥ずかしがっている様に聞こえたんだけど。


 っていうか「骨ばった手」とか「広い背中」とか、何だソレ。

 それってまるで幼馴染の意外と男らしい一面が……みたいな感じに聞こえるんだけど?


 ……いやいやいやいや、それは無い。

 多分コレ、マンガに思考が引っ張られてるな。

 ちょうどそういう展開だったんだよ、昨日買ったのが。


 そうだよ気のせい、それか自意識過剰だよ。

 だって、あの茜だよ?

 まさか茜が俺なんか――。


 ガチャッ


「ただいまー!」


 あっやべっ、まだラジカセ片付けてない。


 混乱する頭はそのままで、慌ててラジカセを定位置に戻す。

 しかしそのままじゃ居た堪れなくて、立ち上がり部屋のドアを開けた。

 と、丁度階段を上がってきた茜とはち会わせてしまう。


「何? トイレ?」


 ちょっと嫌そうな顔でこちらを見てくる茜は、いつも通りの茜だった。

 が、ダメだ。


「いや、あの、ごめん! 今日は用事があるから!!」

「えっ、ちょっと?!」


 茜の顔を見る事が出来ずに、視線を外して茜の横をすり抜けた。

 後ろから「こらぁーっ! 勝手に帰るなー!」って言われたが、そんな事を言われても仕方がない。



 何だかとっても顔が熱い。

 茜は俺をどう思っているのだろう。

 俺は茜を……?


 分からない。

 分からないが、だからこそ。 


(こんな気持ちで隣に居られるかぁー!!)


 心の中で、そう叫び声を上げたのだった。


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