第6話 慌てふためく俺……セーフ? ~7月11日①~
幼馴染とは言っても、所詮は他人の部屋である。
特に俺の場合は呼び出されて出向くのだから、彼女が不在な確率なんてそう高くはない。
それでも茜の性格上ゼロという事は無く、その度に部屋で一人待たされる内に良くないなとは思いつつも、結局魔が差して暇つぶしがてらカセットテープを盗み聞くという背徳的な日々を、俺はこっそりと送ってしまっていた。
おそらくこれまで聞いたとしても支障が無い事、知らなかったふりが出来る程度の事ばかりだったから、一種の油断もあったんだろう。
もし言い訳をするのなら、悪いのはもちろん俺だけど、人を呼んでおいて平気で人を待たせる茜も悪いし、なんならこういう状況を作り出した神様的な何かも悪い。
心臓に悪い。
そんな事がこの日はあった。
部屋に一人だという事を確認して、いつもの場所をチラリと見る。
するとそこには角ばった古くて赤いラジカセが――。
「何じゃこりゃ」
思わず声を上げたのは、ラジカセが何やらゴテゴテキラキラしていたからだ。
電気にキラキラと煌めくラインストーンで縁取られたラジカセには、その他にもマスキングテープやらシールやら何やらでデコデコな感じにされている。
元の赤は、もう一部しか見えないけれど、茜仕様に飾りつけされて尚も放つこの異色さは、一体何故なんだろうか。
相変わらず部屋から一つだけ浮いている事に違いはない。
「うーん……果たしてこれが、可愛いのか?」
そもそもこの古くて武骨なラジカセをどうにか可愛くしようとする試み自体、ちょっと無理があったのかもしれない。
でもまぁ確かスマホもこんな感じだったし、学校のノートも似たような感じだった。
もしかしたらハマっているのかもしれない、最近デコに。
俺にはイマイチその良さが理解できないけど……なんて思いながら、今日もラジカセを手に取って、再生ボタンをポチリと通し込む。
その瞬間。
<7月11日。なんかもうね……今日マジ意味わかんなかったのよぉぉぉぉぉぉ!>
「ぅおあ?!」
音割れする程の大絶叫に、慌てて一度停止ボタンを押した。
急いで扉の外を確認するが、テレビの笑い声が一階からするだけで誰も居ないし上がってこない。
ホッと胸をなでおろしながら、静かに再び扉を閉めた。
そして座り込み、改めて「はぁー」と深いため息を吐く。
「あー、びっくりした。っていうか何だよ、どうしたんだよ」
もしかしてボリュームでもいじっちゃったのだろうか。
そう思って側面を見る。
このラジカセは、音量を横についているつまみを上下する事で調整できるようになっている。
しかし音量はちょうど真ん中、今まで聞いていたのと同じ大きさのままだった。
という事は、茜が音声を取る時に大声だったという事なんだろうきっと。
「一体何があったんだよ」なんて思いつつ、呆れ半分好奇心半分で再度再生ボタンを押す。
もちろん音量はかなり下げての再トライだ。
<あぁもうマジで意味わかんない! 何なのアレは! 何なのアイツは!!>
再生すると、主旨の分からない暴言みたいな言葉たちが、冒頭に続けられている。
うーん、なんかすごく荒れてるなぁ。
いや、荒れてるっていうよりも、混乱してる?
普段はあまり聞く事のない声色にそんな感想を抱きつつ、少しだけ考える。
7月11日というと昨日だ。
昨日……なんか変わった事とかあったっけ?
もちろん茜の全部を知ってるわけじゃないけど、別に授業中に茜が妙な失敗をした記憶も無ければ、それ程多くの宿題が出た訳でもない。
放課後は、特に茜から呼び出しも無かったし知らないけど……。
あぁでも街中で一瞬会ったな。
でもアレは、アイツにとってはいつもの事だろうし、その時は特に変な事も――。
<何なのバカシュン!>
え、俺?
俺なの?
何で俺?
分からな過ぎて、最早首を傾げる事しか出来ないでいると、どうやらやっとラジカセの向こうの茜が少し落ち着いたようである。
はぁーっという長いため息の後に、やっとちゃんとした日記じみた、中身のある語りが始まった。
<実は今日、学校からの帰り途中に街中で絡まれたのよ、粋がったバカに。まぁそれはわりといつもの事だけど>
そう、茜はコレで見た目が良い。
端的に言うと、モテる。
第一印象が派手に見えるから、特に粋がったバカ――もとい不良たちに目を付けられやすいみたいだけど、茜だって目を付けられたくて付けられている訳じゃない。
別に容姿の事でチヤホヤしてほしいとも思っていない。
むしろそういう軽いヤツラは、茜が最も嫌いな人種だ。
茜は気が強いから、そういうヤツらに出会ってしまうと分かりやすく拒絶する。
突っぱねる以上の事をする。
結果的に喧嘩のような感じになって、まぁ最後にはじいちゃん直伝の護身術が火を噴くんだけど、それでも怪我の一歩手前になったりと、これで意外と危なっかしい。
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