第5話 理不尽でおせかっいで我儘な幼馴染 ~6月30日②~
目の前で「ゲーセン行こうぜ」って話をした後で、俺に「ごめんなー、どうしても外せない用事があって」とか言うんだから、これでも一応嘗められてるなっていう自覚はある。
でも、ああいう輩って何か言ったところで結局嫌な顔された後、適当に掃除したふりをした帰るか、色々理由をこねくり回した末に押し付けて帰っちゃうかの二択なんだよ。
つまり時間の無駄ってやつだ。
<あんなだからいつも面倒事を押し付けられるのよ! マ・ジ・で! ヘタレ>
うぐっ……
<アイツって昔からそういうところあるのよねぇー。押しが弱いっていうか、諦めが早いっていうか>
一体誰のせいだと思っているのか。
主に、押しが強くて諦めが悪い挙句に上手くいかないと怒る幼馴染のせいなんだけど、分かってんのかなコイツ。
分かってないんだろうなぁ、コイツ。
<あんなんじゃ、仲がいい女の子とかにも絶対に『友達としてはいいけど彼氏にするのはちょっと……』とか『結局良い人止まりよねぇ』とか言われるに決まってるわ>
うぐうぐっ
<まぁそもそも人見知りの陰キャだから、仲のいい女の子とか居ないけどねっ>
うぐうぐうぐっ
ひどい、ひどすぎる。
お陰で俺のライフはもうゼロだ。
<もうほんっと、見てると腹立つのよ全く>
じゃぁもう見なけりゃいいじゃんか。
<だからといって、知っちゃった以上放っておく訳にもいかないし>
いや別に、放っておいてくれていいよ。
<お陰で放課後の予定キャンセルせざるを得なかったじゃないのよまったく……アイス食べたかったのに>
それか、「俺のせい」っていうのは。
確かに何か携帯いじってたけど、掃除手伝い出した時。
でもそれちょっと理不尽過ぎない?
俺別に「手伝って」とか言ってないし、元々誰かに手伝ってもらうつもりもなかったし。
まぁ確かにそのお陰で思ってたよりも掃除は早く終わったけど、俺だって「あんた、バッカじゃない?」なんて暴言を、わざわざ憐れみと蔑みを混ぜたような顔で浴びせられながら掃除したくない。
地味に落ち込んだんだぞ、アレ。
っていうか大体茜って、俺と同い年のくせに、いつも俺に先輩風吹かせてくるの、何なんだろう。
下僕か、良くても弟か何かだとしか思ってないだろ。
お前に気にしてもらわなくても、俺は俺で陰キャなりに普通に生きていけるってのに。
<……あー、なんかアイスの事思い出したら本当にアイス食べたくなってきちゃった。買いに行かせよーかしら。あ、それいいじゃないそうしよう。別に良いわよね、手伝ったんだしご褒美貰っても。よし、そうと決まったらメールしよー! って事で、今日の日記……終わり!>
カチッ
シンと静まり返った室内で、俺はコトリとラジカセを元の場所へと戻す。
……しかしなるほど、一つ謎が解けた。
何で昨日いきなり『あのアイス奢れ』要求されたのかと思ってたら、そういう事だったのか。
まぁ別にいいけどさ。
渡したアイスはうちの冷凍庫から持ってった家族用の買い置きだったから、俺の財布は痛まなかったし。
っていうかアイツ、全然帰って来ないなぁ。
もしかして、呼んだの忘れてるんじゃないか?
たまにあるんだよなぁ、そういう事。
そう思い、スマホを操作し茜の番号を呼び出した。
待つ事、5コール。
面倒臭そうな声で「もしもし?」と声がする。
「……あ、もしもし?」
<何よ>
「いや何ってお前、俺ずっと待ってるんだけど」
つっけんどんな態度にちょっとイラッときて、ちょっと語気強め――とは言っても、怒らせない程度のほんの些細な叛逆だけど――で言い返す。
と、受話器の先で<え、何でよ>という素朴な疑問声がした。
「お前だろ? 『宿題教えなさい!』って言ったのは」
ため息交じりに呆れ声で指摘すれば、「あっ」という声が返ってきた。
間違いない。
やっぱ忘れてたな?
茜のヤツ。
酷い。
かなり酷い。
ここは一つ、しっかり言ってやらなければなるまい。
「……はぁ、もういいからはよ帰ってこい」
結局何も言えなかった。
これじゃぁヘタレと言われても仕方がないという自覚はある、俺である。
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