第3話 バレないバレないギリギリセーフ ~6月14日②~



 幻聴かと思ったが、流石に聴き間違えない。

 この16年、ずっと聞き続けた声だ。


<えーっと、今日は6月14日。昨日倉庫からこれを見つけて、おじいちゃんがくれるって言うから貰って帰ってきました。せっかく貰ったんだし何かに使えないかなって考えて、それで今日からこれで日記を付けようかなって>


 日記?

 書く代わりに喋るっていう事なのだろうか。


 そこまで考え、思い出す。

 そういえば、確か最近誰かが動画で日記付けてるって言ってたな、教室で。

 もしかしたら、それと似たようなものなのかもしれない。


<前に一回日記つけてみた事あったんだけど、結局書くの面倒になって二日目以降続かなくって。でもこれならやれるかなって。だってボタン押して喋るだけだし>


 確か前に俺と日記の話になって、俺が「続けるとか無理だろ」って言ったら怒って「出来るもん!」って言ってたやつだな、コレ。

 まだ続いてるって言ってたのに、何だよ嘘だったのか。


 あー、まぁアイツ、見た目は可愛いしハキハキしてるタイプだし、学校では男女問わず人気のある陽キャだけど、あれで意外と飽き性のズボラだからなぁ。

 何かを続けるって事が元々あんまり得意じゃないのは知ってるから、別に驚きはしないけど。


 よく、脱いだパジャマは抜け殻状態で置きっぱなしだし、こないだは『携帯がない』とか言ってめっちゃ探すの手伝わされて。

 携帯は、マンガの間にあったんだよなぁ。

 探させておいて「あっ、そういえばお母さんに呼ばれてしおり代わりに挟んだんだった」ってサラッと言ってたなぁ。

 挟むなら別のもの挟んどけよっていう話だけど。


<という事で、今日から毎日ボイス日記みたいな感じで取ろうかなと思います。

まぁ続くかどうかわからないけどね……>

<茜ー? ごはんー!>

<あっ、はーい! じゃ、今日はこれでおしまい。明日から日記頑張るぞー>


 カチッ


 カセットが止まった。

 どうやらこれで終わりのようだ。


 

 って、何となく話始めたから最後まで聞いちゃったけど、日記ってコレ、聞いたのバレたらただ単にラジカセ障ったのがバレた事以上に怒られるんじゃぁ……?!

 今更そんな事に気付いて、思わずフリーズしてしまう。


 いやまぁでも、今日のは幸いにも決意表明みたいな感じで、中身なんてあってないようなものだったし、うんうんきっと大丈夫――。


「ただいまー!」


 ガタガタガタッと、慌てて手元のラジカセを戻す。

 玄関付近で茜と母親の「お帰り茜、シュン君着てるわよ」「あー、はいはい」というやりとりが聞こえ、トントントンと足音が上がってきた。


 

 大丈夫、大丈夫、大丈夫。

 黙ってればバレないバレない、ギリギリセーフ。


 俺は懸命に自分に言い聞かせる――否、半ば暗示を掛けつつ平静を装うのだった。


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