第8話

 白銀は軽く頭を振った。


「これで、信じたか?」

「か、神様がなにゆえ、このような貧相な家に、おいでになられたのでしょうか?」


 祖父の怯えながらの問いに、金色の瞳で、白銀はついっと一太郎に視線を向ける。


「なに、一太郎と約束をしただけだ。雨を降らせてやる代わりに、おまえの命の次に大事なものをもらっていくと」

「そ、それが千鶴だと?」

「一太郎が命の次に大事にしているものは、千鶴だ。だから、私がもらっていく。それが対価だ」


 白銀は、千鶴に手を伸ばした。


「さぁ千鶴、おいで。私はおまえとの約束を守るためにも来たのだ」

「覚えて、くださっていたのですね」

「無論だ。さあ」


 千鶴は導かれるように止めていた足を進め、白銀の手を取ろうとした。


「だめだ!」


 しかし、二人の間に、一太郎が立ちふさがった。


「神様! おれの大事なもんは仕事道具だ! 千鶴じゃねぇ!」


 白銀はあからさまに不機嫌そうに、顔を歪めた。

 

「嘘を言うな。おまえは誰よりも千鶴を愛しているではないか。だが、その愛は今、ゆがんでいるようだが」

「ゆ、ゆがんでいる?」


 白銀は鋭い目つきで、一太郎をにらみつけた。


「千鶴が望まぬ結婚を、無理に進めようとしているだろう。それが千鶴の幸せにつながると思いこんで!」

「じ、実際に、こんな村にいるより」

「千鶴の意志を無碍むげにしておるではないか! それのどこが幸せを願ってのおこないだ!」


 白銀は一太郎の言葉をさえぎって、一太郎に怒りの矛先を向ける。

 

「白銀様」


 千鶴は一太郎の横をすり抜けると、怒る白銀をなだめるように彼の手を取った。


「白銀様、もうよいのです。だってあなた様は、私との約束を守るために、来てくださったのでしょう?」

「あぁ、そうだ。一太郎との約束の対価として、千鶴をもらいにきた。それと同時に、千鶴と交わした約束も果たすために参った。だが、千鶴がこの手にいる以上、もうここに用はない。行こう」

「はい」


 千鶴は笑顔でうなずいた。

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