第7話

 一太郎のあがきに、青年はまたしてもため息をつく。


「一太郎、おまえは神との約束を違えるつもりか? 私の采配でこの村を水没させることもできるのだぞ?」

「う、うそばっかいいやがって! あの雨だって兄ちゃんがやった証拠でもあんのか!」

「一太郎、なにを騒いでおるんじゃ」


 祖父の声で、一太郎が振り返る。廊下には祖父と祖母、そして千鶴がいた。


「千鶴、来ちゃならねぇ! 部屋に戻ってろ!」


 一太郎がそう叫ぶが、千鶴は驚いたようにその場に立ちすくんだ。それを見て、青年が一太郎を押しのける。


「千鶴、約束を果たしにまいったぞ」

「うそ……本当に……?」


 千鶴は口元を手で覆った。心いっぱいに広がる喜びの感情に、言葉がでてこなかったのだ。

 

 嬉しさをあふれ出す千鶴に、焦ったような一太郎。対照的な二人の反応に、状況を読み込めない祖父は、青年に尋ねた。


「おぬしは、一太郎や千鶴のことを知っているようだが、誰だね?」

「私は、おまえたちが祀ってくれている、狐の神、白銀しろがねだ」

「は?」


 その言葉を聞いて、千鶴以外の者たちは唖然あぜんとした。自ら神を名乗るなど、頭がおかしいと思ったのだ。


 白銀はふむっと思案顔になる。


「まぁこの姿を見て信じろというのが、無理な話だな。私の本当の姿を見せてやろう」


 白銀が笠を取ると、ふわりと風が吹き、旅装束から平安時代の貴族が着ていた白い狩衣かりぎぬの衣装を身にまとい、頭には白銀の狐の耳、尻には二本の白銀の尻尾が揺れていた。そして瞳は、金色の輝きを放っていた。


「ひ、ひぇぇ‼」


 一太郎たちは腰を抜かして、その場に座り込む。ただ、千鶴だけはまっすぐに白銀を見ていた。

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