第6話

 笠をかぶった青年は、口元に笑みを浮かべながら言った。


「朝からずいぶんと、にぎやかなことだな」

「あ、あんた。いったい、何の用だ? わざわざ町から戻ってきたのか?」


 早朝からやってきた青年に、一太郎は訝しげに問いかける。


「町には行っていない。行く必要がなかったからな。今日私が訪れたのはほかでもない。約束のものをもらいに来たぞ、一太郎」

「な、なんでおれの名前を……」

「この村のことで、知らぬことはない。この村は私が降らせた雨のおかげで豊作となった。私はおまえの願いを叶えてやった。今度はそちらが、約束を守る番だ」

「や、約束?」


 一太郎が困惑していると、青年は深々とため息をついた。


「なんだ? 忘れてしまったのか? 言ったであろう。『なにかを得るには、なにかを差し出さねばならん』とな。それだけじゃない。『命の次に大事なものを差し出してもらう』ともな」


 一太郎はその時のことを思い出したのか、先ほどまで千鶴に対して怒りで顔を真っ赤にしていたが、今度は真っ青になった。最悪なことを想像したからだ。一太郎にとって、命の次に大事なもの。それは千鶴だ。


 だが、そんな一太郎の変化に青年は微塵みじんも興味を引くことなく、厳かな声で告げた。


「さぁ出してもらおうか? おまえが命の次に大事なもの、一人娘の千鶴をな」

「し、知らねぇ! おまえのことなんて知らねぇ! 約束なんか、知らねぇ‼」


 一太郎の叫び声は、居間にいた千鶴たちのもとへ響いてきた。


「いったいなんじゃ?」


 祖父と祖母は連れ立って、玄関へ向かう。千鶴も二人のあとを追った。

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