第5話
それから日々が流れ、ある日の朝。家族四人で食卓を囲んでいるとき、一太郎は話を切り出した。
「千鶴。今年は豊作になったから、採れたものが町でいっぱいものが売れるだろう。そしらた、おまえの結婚資金にしてやるからな」
笑顔で言う一太郎に、千鶴は持っていた茶碗を置いて、真剣なまなざしを向けた。
「父様。私は、お見合いをお断りいたします」
「な、なに言ってるんだ!?」
「そうじゃぞ、千鶴。とてもありがたいお話じゃないか」
父、一太郎だけでなく祖父も反対の声を上げる。数日前に、千鶴の思いを聞いていた祖母は黙って様子を見ていた。
「千鶴をぜひ嫁にと言ってくださっているのは、町で一番の商家だ。こんな貧しい暮らしを、千鶴はしないで済むようになる。なにが気に入らないんだ?」
「私はこの村が好きです。それに、今の暮らしに不満も感じていません。ここでずっと暮らしてきた私が、町でうまく生活できるとは思えないのです」
一太郎は、ダンッと食器を割れんばかりの勢いで置くと、そのまま立ち上がり、千鶴を見下ろす。
「だめだ! おまえには、絶対に見合いをしてもらう! その相手と絶対に、結婚するんだ!」
一太郎は厳しい声で千鶴を怒鳴りつけるように、言い切った。千鶴は顔をしかめる。
千鶴の反抗的な態度に、一太郎がさらに言いつのろうとしたとき、玄関のほうがから声が聞こえてきた。
「誰かおらぬか?」
「なんだ? こんな時間に」
一太郎は不機嫌そうに玄関に向かう。
「あ、あんたは……」
そこにいたのは、村が日照り続きで苦しんでいるときに、一太郎が出会った謎の青年だった。出会ったときと同じように、旅装束で笠を深くかぶっていた。
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