第4話

 それからというもの、雨は定期的に降るようになった。おかげで、だめになりかけていた作物たちは元気を取り戻し、みるみると育っていき、夏を越えて、秋には田んぼには稲穂が黄金色の輝きを放ち、畑は緑の絨毯を作り上げた。


 村人たちは収穫に精を出している。千鶴も手伝おうとしたのだが、一太郎が拒否した。


「白くてきれいな肌が、太陽で赤くなったらいけねぇ。千鶴は家で待ってろ」

「……わかりました。お仕事、頑張ってください」


 千鶴は父の強い要望に、しぶしぶとうなずいた。代わりに、梅のおにぎりを二つ作って、お弁当として一太郎に持たせた。


「千鶴は本当に、気の利く娘だ。ありがとうな」


 一太郎は畑と稲刈りの道具を持って、家を出て行った。


 家に残された千鶴は、もう年で野良仕事ができなくなっている祖父と祖母に、食事の用意をしたり、祖母と針仕事をしてすごした。でも、時折なにかを考え込むようにして、針の動きがとまってしまう。


 今も一緒にいる祖母と針仕事をしていたのだが、何かを考え込んでいる千鶴に、祖母が声をかけた。


「どうしたんだい? 千鶴。なにか悩みがあるのなら、話してごらん?」

「おばあ様……。前に、父様が持ってきた見合いの話は、どうなりましたか?」

「どうって、一太郎は進めるつもりだろうよ。千鶴も、こんな辺鄙へんぴな村にいるより、町で暮らすほうが、ずっと幸せになれるよ」

「正直、私はお見合いをお断りたいしたいです」

「千鶴」


 祖母は針をしまって、千鶴と隣に座りなおし、覗き込むように千鶴の顔を見つめる。


「どうしたんだい? だれかに、なにか言われたのかい?」

「いいえ。私はこの村から出たくないんです。それに約束があるのです」

「約束?」

「私はその約束が果たされるのを、待っていたいのです」


 千鶴の言う意味がわからず、祖母は困惑する。


「その約束っていうのは、なんなんだい?」

「ごめんなさい。言えません」

「千鶴……」


 千鶴はそれきり、もう「約束」という言葉を口にすることはなくなった。

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