第2話
青年は腕を組んで、一太郎に問いかける。
「ところで、先ほど雨を降らせてほしいと言っていたが?」
「あぁ。こう毎日、お天道様が必要以上に頑張ってくれてるんでね。このままじゃ、作物がだめになっちまう。作物がうまく育つように、雨が定期的に降ってくれればいいんだがね。こればかりは、どうにもならん」
「私なら、おまえの願いを叶えてやれるが?」
「はあ?」
一太郎は目を瞬かせた。その数秒後、腹を抱えて笑い出した。
「あはははは! なんだ? 兄ちゃんは雨を降らしてくれる神様だってことかい?」
「そうだとしたら?」
一太郎は笑いすぎて出てきた涙を拭って、「そうだな」とつぶやいた。
「兄ちゃんが本当に神様だっていうなら、やってみてほしいもんだな」
「おまえの大切なものと引き換えでもか?」
「なんだ? おれの命でも差し出せって?」
一太郎がそういうと、青年は首を横に振った。
「命はいらんさ。だが、命の次に大事なものを差し出してもらう。なにかを得るには、なにかを差し出さねばならん。それがこの世の理だ」
「ん~なんか難しいこというんだな。でも、命の次に大事なもんか……」
一太郎の頭の中には、一人娘の千鶴の顔が浮かび上がった。亡き妻との間にできた唯一の子。一太郎はとても大事にしていた。
「かまわねぇよ。兄ちゃんが本当に雨を降らしてくれるっていうならな。あぁでも、ただ雨が降ればいいわけじゃねぇ。作物が育つような雨の降り方じゃねぇとな。雨続きでも、作物はだめになっちまうから」
「注文の多い奴だ。だが、言質はとったぞ。後日、おまえの大切なものをもらいに来る」
そういうと、青年は踵を返して、森のほうへと去っていく。
「なんだったんだ?」
一太郎は不思議な表情で、青年を見送る。そのとき、青年のお尻に二本に分かれたふさふさとした銀色の狐の尻尾が見えた。
「え⁉」
一太郎は慌てて目をする。しかし、次に目を開けたときには青年の姿は消えていた。
「……なんか、狐に化かされたみたいだ」
一太郎は呆然と、つぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます