狐に嫁入り

岡本梨紅

第1話

 山奥にある小さな村。この村は田畑でとれた作物を、山の麓にある町で売って生活をしている。しかし今この村は、危機的状況に陥っていた。干ばつである。


 梅雨の時期にも関わらず、雨がほとんど降らず、ここ最近は日照り続きだ。田畑の水は枯れかけており、地面にひびが入っている始末。十分な水分が行き届いていないため、作物はしおれてしまっている。村人たちは困り果てていた。


「ふぅ。こう毎日、お天道様が照り続けてたら、作物がみんなだめになっちまう。今年は冬を越すのが厳しいかもしれんなぁ。町には売りにいかず、備蓄したほうがいいかもしれんなぁ」


 畑の手入れをしていた男、一太郎は首にかけていた布で、顔に垂れてくる汗を拭う。この男は尊重の息子で、村一番の働き者だ。


 一太郎が空を見上げる。雲一つない真っ青な空がどこまでも広がっており、太陽がまぶしいほど照りつけ、地上に陽炎を浮かび上がらせている。


「だれか、雨でも降らせてくれんかねぇ」

「降らせてやろうか?」

「え?」


 一太郎の独り言に返事が返ってきたので、一太郎は驚いて後ろを振り返った。

 そこにいたのは、笠を目深くかぶった旅装束の、声からしてまだ若い青年がいた。笠を深くかぶっているため、一太郎からは微笑みを浮かべる口元しか見えない。


「今、おれの独り言に返事をしたのは、兄ちゃんか?」

「いかにも。ずいぶんと、困った声だったものでな。つい反応してしまった」

「ははっ! そうかい。あんた、旅のお人かい? 悪いが今、この村は自分たちのことで手一杯だ。旅のお人をもてなすことはできねぇ。日が高いうちに、麓の町へ降りたほうがいい」

「親切にどうも」


 一太郎の助言に、青年はそう言葉を返した。

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