第6話 (僕+私)の修学旅行と作戦
電車はなかなかカーブに到達せず、痴漢魔の表情も険しくなってきた。
『...そこまでして京に触りたいのかよ...』
と、雅は痴漢魔の執念に少し引いてしまう。
僕の左肩には寝たフリをする京の頭。
本当ならこのまま撫でたい所なのだが、あまり人前で、しかも痴漢魔盗撮犯にそこまで見せる気は起きなかった。
着々と電車は終点へと近づいていく。
ここでアクションが起こる。
電車が線路を切り替えたのか、電車が大きく揺れた。その瞬間痴漢魔が僕の予想通り、京に覆いかぶさろうとする。それを僕が京に先に覆いかぶさり、京に触れることを防ごうとする。が、ここで痴漢魔が不自然な行動を取った。
混んだ車内で明らかにわざとらしい動きで足を滑らせ、転んだ拍子に左手で僕が覆いきれていないスカートの中の方に手を伸ばした。
『これは...まずいっ!?』
これは上半身を触られるよりもまずい。
しかしもう間に合わない。
痴漢魔の手はもう既に京のスカートの中に入っていた。
「ひぅっ!?」
痴漢魔の手が京の中に触れてしまう。
「うぁっ!?...」
僕は一瞬遅れて痴漢魔の左手を思いっきり地面に踏みつけて直ぐに京を強く抱きしめた。
電車は終点の国際会館に到着。
おじさんは左手を押さえて直ぐにドアから逃げた。
でも僕はそれを追わなかった。
涙目になる京。僕はその京を「ごめんな。本当に...ごめんな...」と言いながら強く抱き締めた。
京が少し落ち着くと僕は京と一緒に電車をおりて改札へ向かって歩いた。
京は涙ぐんだまま僕の腕を両腕で強く抱きしめる。
今回は完全に僕の失態であった。僕の怒りのために京を犠牲にしてしまった。
わかっていたはずなのに京に知らぬ間に強制してしまっていたのだ。
僕は最低だ。
「雅。雅は悪くないよ。」
震えた声で京は僕を慰めた。慰められるべき人は僕ではなくて京のはずなのに、責められるべき僕を慰めた。
「そんなことは無い...盗撮の時点で止めていればこんなことにはならなかったんだ...」
「でも雅は私のために頑張ってくれた。それこそ一花さんや咲也君もそう。」
「...」
僕は歯を食いしばった。
京に慰められた僕は涙が溢れそうで溢れそうでしょうがなかった。
自分の失態なのに、被害にあった京が僕を慰めてくれる。
それが故に男として今この場で涙を見せる訳には行かなかった。
僕達は改札についた。改札では駅員さんに事情と動画を見せる一花さんと、咲也に取り押さえられた痴漢魔がいた。生野先生ももう一人の駅員に咲也が撮った動画を見せて事情を説明していた。
生野先生は僕たちが来たことに気がつくと、こっちに向かってくる。そして僕にこう言った。
「今回の件、悪いのは橿原じゃない。悪いのはやつだ。
確かに判断を誤ったこともあったかもしれない。でもそれはタラレバだ。
お前が痴漢魔の行動に気が付き、予測していなければもっと酷い事態になっていたかもしれない。まあこれもタラレバに過ぎないのだが...
まあなんだ。私が言いたいことは、橿原が予測して行動したからこそやつも捕まえられたし騒ぎは怒らなかった。
もし知らなかったら出雲はもっと酷い目にあった上、騒ぎに乗じて犯人も逃げ切られてしまったことだろう。
気に負いすぎるな。お前はよくやった。出雲がやられた後もしっかり出雲を守ってやったじゃないか。
あの判断は普通の男子高校生にはできないぞ。」
そう言って生野先生は再び駅員の元に戻っていった。
「雅、私は大丈夫よ。だから雅も大丈夫。それでいいわね?」
「...ああ。そうだな。そういうことにしておくか...」
雅は生野先生の言葉に感銘を受け、京の『気にするな!』という発言にバツの悪い顔で納得し、京と共に皆の元に向かっていくのであった。
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読んでくださりありがとうございます。
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