第3話 (僕+私)の修学旅行初日①

「あー〜ーー〜ーー」

「...奏多、後ろからうるさいぞ。」

「あーって言ってると、バスが縦に揺れた時に音程が変わるのが面白くて」

「おう...そうか...」

「悪かった。悪かったって雅!だから引かないでくれ!」


雅は少し悪ノリで本気で引くように倒していた背もたれをギリギリまで元に戻したが、本気に思ったのか、奏多がしっかりと謝ってきたので、「気にするな」と一言いって背もたれを最後まで倒した。


今回の修学旅行は新幹線駅まではバスで行き、駅から新幹線で目的地に向かう。駅をおりると先にバスでチェックインを済ませ、荷物を置いて、散策を開始するらしい。


バスは一時間半ほどで新幹線駅に到着した。


バスをおりると、首都なだけあって凄い人がいる。


僕ら五人を含めたクラスは固まって行動する。


何故かクラスメイト皆が僕らを囲うように歩いてくれる。


「おい咲也、これはどういうことだ?」


近くにいた咲也に聞いてみた。


「お前ら五人が美形すぎて花嵐って一瞬でバレるだろうが!」

「ああ、そうか、そういえばそうだったな。僕が美形かどうかは知らんがありがとな」

「おう。」


新城下高校で一番最初にバスを降りるクラスは特A組だ。


なので僕らが新城下高校の看板を背負っているわけでもある。


話してはいなかったが、花嵐のメンバーは有名ドラマの重要なキャストとして出てる人もいる。


まあ京と僕なのだが、そのおかげで良くも悪くも花嵐が動画配信としても有名になった。


今その悪い面を皆がカバーしてくれているという状態だ。


しかしあくまで五人は囲まれているだけであって気づく人もチラホラと見受けられた。


『このまま新幹線に乗り込むまで変なやつ、絶対に来るなよ!!...』とクラスメイトの誰もが思ったその時だった。


「ひぇっ!?ええっ!?ねぇねぇ花嵐!!花嵐じゃない!?」

「え!?ヤバイヤバイヤバイ!!イケメンすぎ!!美人すぎ!!」


駅にいた誰かがとうとう声に出してしまった。この瞬間クラスメイトの誰もが『まずい!』と思った。


一人がいい始めれば、それにつられて他の人も言い始める可能性が高くなる。


しかし誰もが予測したそれが起きることは無かった。何故かと言うと、


「申し訳ない。いま花嵐含む私達は修学旅行中なんだ。出来れば私は彼らにとっての青春の場を壊したくない。周りの一般の人も巻き込んでは失礼だからな。お願いできるか?」


と、生野先生が声を上げた女子にウインクをしながらお願いをした。


ちなみに言っておくが生野先生は凄くかっこいい先生だ。実際元お偉いさんだったらしいし、趣味は男装。その道ではかなり有名な人なのだとか...現在のメイクもそっちを意識しているからだろうか、男装寄りのメイクをした日には女子から大人気なのだ。今日の先生は男装メイク。そんなかっこいい人にお願いされたら断れることも無く...


「は...はい!」


と、目をキラキラして頷いてしまった。


『い、生野先生...すげぇ...』とクラスのみんなが心で感心したのであった。


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扉が閉まり、新幹線はゆっくりと走り始めた。段々と速度を上げていき、時速はこの区間最高の100kmまで加速する。


電車は二つほど先の駅を出発し、富士山が見える地域まで来る。


首都の都会な街並みから段々と田舎になっていく車窓を眺めながら僕達は座席を向かい合わせにして、トランプを楽しむ。すると車内で車掌さんの放送がかかる。


〈まもなく、進行方向右側の車窓に富士山が映ります...〉


この車両には新城下高校生しかいないので皆右側の列に身を寄せて富士山を「お〜」と眺める。


僕達はというと牡丹以外トランプに集中していた。


「懐かしいね。」

「ああ。」


奏多が自分から話をふった。


「あの時は悪かったとは思ってるよ。」

「ほう。あの時の僕と京の心情を知っていながらやっていたんだな?」

「ははっ...まぁ言い方はあれだけど、間違いではないかな。〈人の気も知らないで、〉だろ?」

「よくわかったな。」

「伊達に15年友達をしていないよ。」


富士山の放送を聞いて初めて四人で出かけた時の話を二人で始めた。花嵐はここから全てが始まったのだ。


「もしかして楓も知っていてやったのかしら?」


京は冷気を纏わせて楓に質問した。楓の手持ちのトランプにはジョーカーがあり、この質問をすると同時にジョーカーを一段高くして、『これを取ったら許してあげる。』といった譲歩をしてあげる。


それを楓は


「あの時はすいませんでした!!ジョーカー貰いますので許してください!!」


と、怯えながらありがたくジョーカーを頂いた。


この様子は牡丹によってしっかりと動画に収められていた。


いつか使える日が来るかもしれないと思ったからだ。牡丹も既に動画配信者の心掛けが身についていた。


「にしても最初の京は言葉一つ一つが氷柱のように冷たくて尖ってたからな。懐かしいよ。」

「あれは緊張していただけよ。」

「緊張であれは酷すぎるって!」


と京の言い訳に楓が突っ込むとどっと笑いが溢れた。


そんな思い出話をしていると、一同は目的地に到着して新幹線をおりた。


新幹線に乗り込んだ時と同じように皆が僕たちを囲ってくれる。


おかげで今回は誰にもバレずにバスまでたどり着くことが出来た。


僕らは観光バスに乗りこみ、最初のバスと同じ座席で個室旅館に向かっていくのであった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。


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