第三章 高二の秋と言えば...

第1話 (僕+私)の夏の終わりと秋の始まり

...夏休みが終わった。


本当に何も無い夏休みだった。いや、東北の山に行ったり牡丹に会ったり動画を配信したり色々あったのは確かなのだが、これといって大きなことは無かった。


強いて言えば牡丹が新城下高校編入試験に合格して既に一緒に暮らしていることくらいだろうか。


とにかく何も無かった。


花火大会も夏祭りも台風で中止になり、雨続きだったので家から出ることもほとんど無し。


夏休み最終日である今日、8月31日まで大雨なのに始業式である明日、9月1日からは快晴が続くようだ。


この辺の地域に住んでいる誰かが悪いことでもしたのだろうか。


本当にそんなことを疑ってしまうくらいについてない。


明日は始業式、牡丹初の高校登校。牡丹は自分の新品の制服に目を輝かせている。


「牡丹、制服なんて明日から毎日着られるだろ。そんなに目をキラkir」

「わかってないですなぁみや君。初めて着る制服は楽しみなものなのですよぉ。」


牡丹は「ノンノンノン!!」と指を左右に振りながら雅に『冷めてるねぇ〜』といった意味の籠った言葉を返した。


「まあ、夢中になってないでさっさと寝たらどうだ。その大事な明日に起きれなくなるぞ。」

「そ、それもそうね...」


『そういえばそうだった...』と、雅の言葉に納得した牡丹はすぐに制服をハンガーにかけて「じゃっ!おやすみぃー」と、部屋に入ってしまった。


『...二年間必死に女を磨いても、たった一ヶ月で元に戻るなんて、人間って凄いんだな。』


見た目以外中学時代の性格に戻った牡丹を見て、雅は人間という存在の凄さに気付かされた。


『ま、これが牡丹らしくていいのかもな』

「ま、これが牡丹らしくていいのかもな」

「!?」

「私ったら凄いわぁ!?」


思った言葉が他人の口からピッタリ重なって出てきた事に雅はかなり驚いた。


雅の反応で当たってたことに気づいたのか、雅の心を読んだ京が惚気け始めた。


「やっぱり私は雅と以心伝心ねぇ〜」

「ははは、参ったな。一言一句同じだったぞ。」

「ぇぇええ!?本当!?」

「ああ。本当だ。本当に驚かされたな。」

「えっへへぇ〜」


今の京はご機嫌モード。自分の心の読みと雅の実際に思ったことが一致したことに相当嬉しかったのだろう。


ただいま夜の11時。少し早い気もするが、寝る時間にはちょうどいい。


京は雅の所におやすみを言いに来たのだ。


「雅。おやすみ。」

「ああ。おやすみ。」


二人は正面で抱き合って深い深い口付けをする。


二人の心はどんどん満たされていく。互いの体温が抱きしめた体から、口から伝わってくる。どれほど時間が経ったか分からないが...


「お二人さん。そういうのは自分たちの部屋でやってくれないかしら?」

「「あっ...」」


牡丹が扉を開けてニヤニヤとした笑みで僕らに注意する。二人がキスしたのは牡丹の部屋の前だったのだ。確かに自分の部屋の前でカップルがキスなんかしてたらたまったもんじゃない。


「まあこのままここでするのが好きなら別に私は構わないんだけどぉ...」

「あら?もしかして牡丹ちゃん嫉妬かしら?あわよくば雰囲気に紛れてか私もとか考えてたりするのかしら、」


ニヤッとした笑みで煽る牡丹に、悪い顔をしてカウンターを食らわせる京。


『これは長く続くな...』


「悪かった牡丹。そろそろ寝るとする。京も部屋に戻るんだ。じゃ、おやすみ。」


そういうと雅は二人の頭にポンポンと優しく手を乗せて、自分の部屋に帰っていった。


二人は互いに微笑んで「おやすみ」と言って夫々自分の部屋に戻るのであった。


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始業式


今日もワイシャツを着て、輪っかの状態のネクタイを頭から通して締める。ネクタイピンをつけて、ヨレヨレになった歩きやすい革靴を履いて玄関を出る。


そして京と牡丹と三人並んで道を歩く。


これが僕の新しい日常だ。姉と彼女が僕の隣にいる。これが僕の日常の追加項目。


僕は隣を歩く牡丹を見る。


僕はあの日のことを思い出す。


ある少女に恋をして、教室が同じになることを願ったあの日。


教室が一緒になって喜び、隣の席になることも願ったあの日。


予鈴同時に起きた時に右の席にその女の子がいて心から喜んだあの日。


その全てを思い出した。


僕は牡丹にこの日が喜びで溢れる日になって欲しい。自然にそう思った。だから僕は牡丹にこういった。


「これから学校生活もよろしく。牡丹。」


それを聞いた牡丹は、


「うん!よろしく。牡丹高校生活の友達第一号君。」


とニカッとした笑顔で僕に返事したのだった。


高校二年の二学期、それは高校生活の華が詰まった学期。


この学期をこの五人で過ごせると思うと僕は自然と嬉しくなった。


五人は軽い足取りで教室へと向かって歩いていくのであった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、

次回も是非よろしくお願い致します。














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