第8話 僕の姉

「僕には姉さんがいる。姉さんと言っても実際はいとこにあたる。


なぜ僕が姉さんというかと言うと、姉さんには両親がいない。


厳密に言うと、幼い頃に亡くなってしまった。


姉さんは僕の父方の従姉妹で、父さんの双子の弟の子であった。それに加えて母さんの姉さんの子でもあった。


つまり兄弟同士、姉妹同士の結婚であった。


姉さんの両親は交通事故に巻き込まれてお亡くなりになられた。その時姉さんは祖母に預けられていた。


姉さんは物心が着いた頃には既に僕の両親の子という認識だった。


実際に顔も僕とかなり似ている。歳も同じ。周りからは双子と思われていたし、当時は僕も姉もそう思っていた。


姉はとりわけ僕が大好きだった。ところ構わず抱きつくような元気な人だった。


でも中三の夏に母さんは突然「じつは牡丹は私たちの子では無いの。」と僕たちに告げた。


僕はそれにかなりショックを受けた。


姉さんもショックを受けた。


そして僕らは双子の姉弟では無くてもいとこではあるのに少しずつ距離を置くようになってしまった。そして大好きな弟だった僕との距離感に耐えきれなくなったのか、姉さんはある日突然いなくなった。


母さんに聞くと、「東北にある別荘で穏やかに過ごしているわ」とだけ言う。


そして僕はこのままこの地で過ごし、新城下高校に入学し、今に至るというわけだ。」


「なるほど。気になるわ。雅そっくりの女の子。相当可愛いでしょうね...」

「どうだろう。二年も会ってないと分からないなぁ。」

「僕の印象だと、女の子の雅の顔に、楓の性格ってイメージかな。体はもう変わっているだろうから分からないなぁ。でも、本当に雅のことが大好きで何かあれば抱き着いてたね。」

「懐かしい話だな。」

「雅はやられる度に鬱陶しい顔してたもんね。」


四人は今の牡丹のイメージを膨らませる。


「早速明日向かおうと思う。キャリーバッグに服やカメラを詰めて行こう。一花さんと大輝さんが荷物を車で運んで行ってくれるそうだ。目的地までは家のミニバンで行くらしい。」


「わかったよ。」

「リョーかいっ!」

「わかったわ。」


三人ともそう言って準備を始めた。


僕も準備を始める。


あちらに生活する上で必要なものは全て揃っているので、三着くらいの服をキャリーバッグに詰めて、カメラ一台。バッテリー、充電器、スタンド、勉強道具、財布を入れて一花さんに渡す。


「橿原さんの別荘楽しみだなぁ〜!!」


一花さんは盛大に浮かれている。


僕達は一花さんの準備してくれた車に乗りこみ、とりあえず僕の家に向かうことにした。


-------------------------


「ただいま。」

「おかえりなさい。」


車が着くとすぐに母さんが出迎えてくれた。


「じゃあ楽しんで行ってくるのよ。牡丹にもよろしくね。」

「うん。」

「じゃあ気をつけてね。」

「ああ。行ってきます。」


僕らは車を乗り換えて、橿原家を出発するのであった。


------------6時間後-------------


車は高速道路を降りて山へと向かっていく。


既に付近には白樺が見え始めた。既に異様な風景だ。『こんな所に住んでるなんて姉さんも大変だな』なんて思う。


高速におりてからさらに一時間。車は止まってエンジンをきる。


「ついたね。」

「ああ。」


奏多が話しかけてきたので僕はただ頷いた。


「よし、じゃあ僕はお先に失礼するよ。」

「早く牡丹に会いに行ってあげな。」

「おう。」


僕は奏多に押されて車をおりる。その瞬間にもう再開は果たされたのであった。


「うぉっ!?」

「...」


一人の女性が雅の自由を奪う。無言のまま雅に抱きついている。


いや、無言な訳では無い。涙で声が出ないのだ。


「久しぶり。姉さん。」

「...」


ただただ無言で抱きつき、雅の服を濡らす。


その様子を確認した奏多も久しぶりの親友の再会に少し涙目になるものの、爆睡している女子二人を起こして、反対側のドアから降りた。


「ほら、もう充分泣いたろ?」

「...」


少女は無言で首を左右に振る。彼女にとってこの二年間は雅にとっての二年間よりかなりの長さを感じていたに違いない。


『皆が外にずっといるのは申し訳ないな...』


と思ってそろそろ本当に少女を離そうとするが、奥から父さんがみんなを誘導する声が聞こえたので、『大丈夫か。』と安心してそのまま少女を抱きしめ返した。


...その前に、『父さん最近会ってないと思ったらここに住んでたんかい。』


僕は心の中で一瞬そう呟いたのであった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入って下さったら、次回も是非よろしくお願い致します。






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