第5話 私の球技大会閉幕
「ナイスゲームでした。」
「これで決勝も京ちゃんと一緒に出れるね!!」
「ええ。楓もやる気満々よ。」
「よし!なら優勝も狙えるね!!」
優香はよし!と気合を入れて体育館へと戻る。都はそれについて行く。
決勝は女バレが4人いて残りの2人は中学時代バレー部だったチームらしい。
正直厳しい。素人とじゃ動きが比べ物にならないほど慣れている。
野球の時も思ったけど、高校の球技大会って中学までそのスポーツをやってた人が得する大会よね。
それでも私は負けられない。だって雅に褒めてもらいたいんだもん。
雅は既に相手のメンバー情報を、知っている。それを知った上で私に「優勝、できるよ!」と言ってくれたのだ。
ここで負ける訳にはいかない。
私達はコートの後ろのLINEに並んでホイッスルの音と同時に礼をした。そしてコート内に入り、すぐに試合が始まる。
サーブは相手から。
経験者の人がジャンプじゃないフローターサーブを打つ。
何気に試合で初めてフローターサーブを受ける。
私は姿勢を落としてボールを最後までしっかり見てレシーブする。
「よし!!」
私にしては珍しく声を上げた。優香さんが高いトスを上げる。
私は下に入り思いっきりジャンプする。が、明らかに今まで無かった壁がある。ブロックだ。でもここで終わりじゃない。
クイッ
ストン...
ビィッ!!
特A組に点数が入る。
「ナイス京!!」
「ナイス京ちゃん!!」
私は打つと見せかけて人のいない所にクイッとトスの軌道を変えてボールを落とした。
フェイントだ。
初心者がまさか途中でフェイントに切り替える技術を持っているとは思っていなかったのだろう。
かなり相手も驚いている様子。
ここから一気にたたみかける。
楓のサーブ。
ジャンプフローター。
相手のレシーブが乱れる。そしてトスも乱れてチャンスボールが返ってくる。
楓がスパイクの体勢に入るが私も同じくスパイクの体勢に入る。
先に私が勢いよく走り始める。そして思いっきり跳ぶ。ブロックは二人。だが、スパイクを打つのは私ではない。
ワンテンポ遅れてトスを上げる優香の懐に楓が入ってジャンプ。楓の振り抜いた手は、優香のほんの少ししか高くあげてないトスをしっかり捉える。
バシーンッ!!
ビィッ
特A組の点数。
時間差アタックだ。普通のスパイクを打つ人と、タイミング遅れて入る人を作り、相手のブロックのタイミングをずらすというもの。
それを私たちは見事成功させた。
私たちのバレーは通用する。私はこの時確かにそう実感した。
しかし相手も一筋縄では行かない。
勢いのあるスパイク。綺麗なブロック。レシーブ。
私達も点数を取られる。
9対9。
拮抗した試合。
生野先生の荒れ狂った必死な応援が聞こえてくる。
11対10
私のサーブの番。
このサーブは2回目だ。1回目の時は負けていたので入れに行くためにフローターサーブだったが、今は一点だけ勝っている。そして試合も終盤。
私は試合の流れを変えなければと思った。
「やっていいと思うかしら。」
「流れを変えるなら、今だよね...」
私が優香さんに尋ねてみると、優香さんは状況を口ずさんで一息置いてこう答えた。
「やっちゃえ!そして決めちゃえ!」
「わかったわ。」
私は笑みを見せながらサーブのボールを貰い、深呼吸する。
会場は応援でざわついているのに、何故か時が止まったかのように感じる。
それほど集中しているのだろうか、分からない。でも決めるしかない。
私は片手で回転をかけてボールを高くあげた。
相手は〈まさかっ!?〉と言った顔をしている。
そう。そのまさかだ。
私は前に走り出し、スパイクを打つ時と同じフォームで高く跳ぶ。
そして私の右腕が最後まで引き付けた瞬間。
バシーンッ!!...ダーンッ!!
ビィッ
この瞬間会場のざわめきが一瞬止まる。
特A組に点数が入る。
〈ワァーーーー!!〉
会場が一気に歓声に包まれる。
私が打ったサーブはジャンプサーブ。
これまたタイミングを合わせるのがものすごく難しいし、落ちてくるボールとジャンプして近づきながらしっかりと手にミートするのは至難の業。
バレーボールを初めて二、三年の人でもなかなかできない。初心者でやるなんて特に身の程知らずと言われる。
ただ、練習の時にやったらたまたまというかほぼ成功するようになってしまった。
さすがに優香さんも驚いていた。
でも実践で使える程の確率で成功していたので優香さんは今回私が使うのを許してくれたという感じだ。
さあ、流れは完全にこちら側。私は再びジャンプサーブを打つ。
ビィッ!!
13対10
サーブを打つ
ビィッ
14対10
マッチポイント。
会場は次のプレーを見守るような沈黙と特A組の総合優勝に対する緊張感に包まれた。
ここで一人の声が聞こえてきた。
「いけー!京ぉ〜!!」
荒らげた声をあげるのは雅。声がかすれている。大歓声の中ずっと私に声援を送ってくれたのだろう。
ビィー!!
サーブ開始のホイッスルが鳴る。
私は深呼吸をして高くボールを上げて走り出す。後ろにふりきった腕を一気に振り上げてジャンプする。
左手を斜め上にあげて右手を引きつける。
回転のかかったボールが私に段々と近づいてくる。
『雅。私、決めるからね』
心でそう呟く。
そして右手を振り下ろす。ボールはネットすれすれを通って相手のレシーブを弾き飛ばす。
ビィッビィー!!
〈ワァーーーッ!!〉
会場が大きな歓声に包まれる。
「やったー!!」
「凄すぎるって京!!」
「私もできるとは思ってなかったわ。」
私達はコートの真ん中で抱き合ったのだった。
優勝は特A組だ。
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表彰で私と雅がステージの上で男子部門の賞状、女子部門の賞状をもらって一礼する。
会場は大きな拍手で包まれた。
先生は「うぅ〜、よくやったぁ!よくやったぁ!」と大号泣。
私たちの球技大会は男子女子共に優勝の総合優勝を手にしたのであった。
表彰が終わり、私は雅の横を教室に向かってゆっくり歩く。
後ろには楓と奏多、優香さんと、長崎君(咲也)がいる。
私は雅に褒めて欲しい。そのために何かアクションを起こしたい。
とりあえず汗の匂いとか気になるけど、とにかく褒めてもらいたいので隣を歩く雅の腕に抱きつく。
「おっ?」
雅がその行動に驚いたのか、少し声に出して私の方を見る。私は少し不満げな顔をする。
雅は一瞬ビクッとしたがすぐに納得した顔になった。
その顔には見覚えがあった。初めて雅とお出かけした時だ。四人で遊園地に行った時、楓に女王様と言われた私に脅えた時の事だ。
『そ、そうだった..』
と、最近あまりに幸せすぎて自分の目の鋭さを忘れていた。
そう思った時だった。
雅は私の後ろに少し下がって後ろから一瞬だけぎゅっと抱きしめて、耳元で
「凄かったよ。おめでとう京。かっこよかった。後でゆっくり話をしような。」
と言ってまた私の隣に戻った。
私はこの後ただ顔を真っ赤にして俯きながら教室へと戻っていくのであった。
それを見た優香は
『キャーーッ胸アツファンタァスティック!!ヤバすぎ!!熱すぎる!!』
と大興奮するのであった。
二年特A組の球技大会はこれにて幕を閉じたのであった。
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読んでくださりありがとうございます。
もしこの作品を気に入って下さったら、次回も是非よろしくお願い致します。
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