第7話 (私+僕)の逃走劇
私たちは今日一日のデートを楽しみ、最後の楽しみである晩御飯を頂いている。対面で食べる2人の間には鍋。中身はすき焼き。自分の手前にはお寿司。私の大好きな組み合わせだ。
私は雅と二人っきりなので言葉遣いを気にせず、思いっきり食事を楽しむ。
「雅〜美味しいね!」
「ああ、そうだな。」
この京の言葉に雅は内心『か...可愛いぃ!!』と叫ぶが、ほんな素振りは見せない。
「雅〜、余裕が出来たらまたどこか二人で行こうね!」
「ああ。絶対だ。」
私は雅にまたデートしたいと堂々と強請る。それに雅は応えてくれる。頬が緩んで「えはへぇ」と言葉が漏れる私を雅が「可愛いな」と少し頬を赤くして微笑みながら頭を撫でてくれた。
雅のなでなでは私としては本当に嬉しい。自慢の黒髪を雅に触ってくれることが嬉しい。私自身顔には自信が無いが、髪の毛には自信がある。毎日丁寧にお手入れをしているから、肌で感じてくれて嬉しい。
この幸せな時を私はもっと永く過ごしたいと思った。
しかしここでありえない出来事が私たちを襲った。
チカッ!!
「うっ!何かしら」
「京、トイレに行ってきなさい。今すぐ!」
「え、ええ。」
私は言われるがままに二人用の和の個室の扉を開けてトイレに向かった。そしてトイレのドアを閉めて鍵をかける。スマホには雅から〈今すぐ一花さんと大輝さんにここに来るよう連絡を!〉
とあった。私は急いで二人に電話をかけた。
プルルルルルルルル、プルルルルルルルル、
〈はいもしもし、京ちゃんどうかしたの?〉
〈一瞬眩しい光が部屋に入ってきて、その瞬間に雅が私にトイレに逃げてお二人に連絡するよう言われたのですが。〉
〈え!?まさか...どこにいるか教えてくれる!?〉
私は自分の居場所を一花さんに伝えると、慌てた声で、
[すぐに大輝と向かうわ!10分待ってて!]
と言ってすぐに電話は切れた。
私は一応雅に確認で
[連絡したわ。もう少しトイレにいた方がいいかしら?]
と質問すると、スタンプで
[頼む]
と返ってきた。恐らく相当緊迫した状況なのだろう。私は『どうか、大事にならないで...』と祈った。
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私は8分ほどして雅にメールで[外に出ておいで、会計はもう済ました]と来たので、トイレから出てお店の外に出た。すると...
『え?』
わたしは目の前の光景に驚いた。入口を円で囲むように人が集まり、その円の中心には雅、マネージャーの二人、そして大きな一眼レフカメラを持った男性二人。真ん中の人が逃げられない状況になっている。
「雅!」
「京、来たか。これを見てくれ。」
私は雅に私達がトレンドに載ったものと同じSNSサイトの画面を見せられる。すると、光に当てられたような私たちの高画質な画像が「天才子役を救った正体不明のヒーローカップル!新城下市のアウトレットパークにて正体を現す!?」
という書き込みの元、ネットに載せられ拡散されていた。
いいねは既に数千を超えている。
「僕達は、盗撮された上にネットの晒し者にされたんだ。」
「え!?」
私が登場して一瞬沈黙が流れたが、雅の発言で外野が一気に騒ぎ立て始めた。
「そもそも雅くんも京ちゃんも一般人ですのでこれは肖像権の侵害です。御二方、もうネットにも拡散されトレンドにまで入ってしまっています。逃げられませんよ。」
一花さんは普段の陽気な様子ではなく、怒りを抱いて盗撮した二人を責めてる模様。
盗撮した二人はこの二人を怪しいと思った一般の人に「何をしてるんですか?」と声をかけられてそのまま逃げ出そうとしたが、すぐに捕まったそうだ。
「京、もう僕達が出る幕はない。帰ろう。」
「えっ?」
京は雅に抱き寄せられて、一花と共に車に乗り込んで家へと向かった。対応は大輝さんがしてくれている。私たちは騒然とする現場を横目にアウトレットパークを抜け出したのであった。
「本当に私ああいうのは人間のゴ〇だと思うのよ!現役の一般高校生をネットに晒しあげて位置情報まで載せるなんて!悪質極まりないわ!!」
どうやら私達よりも一花さんの方が熱が入っているようだ。でも、それだけ私達を大事にしてくれていると思うととてもありがたく思う。
「これを機にまた有名になってしまいますね。」
雅は『困ったな』と言った顔で一花に話しかける。すると一花は
「私はあなた達には幸せな有名人になって欲しいんです!あなた達のカップル以上に理想のカップルなんていないわよ!なのに『可哀想』とか同情されて有名になって欲しいわけじゃないんです!」
と、私たちのカップルへの愛を語り始めた。でもそれも嬉しいことだ。それだけ長く続いて欲しいと思ってくれてるということだから。
すると雅は今度は私に向かって話しかける。
「京、ゴメンな、最後の最後でこんなことになって...」
雅は何も悪くないのに私に謝る。もちろん私はそれを許す。
「いいの、私は雅とふたりの時間を過ごせただけで満足だから!」
私は笑顔でそう答えた。デートの最後くらいは笑顔で終わりたい。そう思ったからだ。すると雅は、
「ありがとう。やっぱり僕は京がいないと駄目だな、ははっ...」
と言って私の頭を撫でる。
私は心の中で雅のかっこよさと優しさと尊さに感情が爆発しそうになった。そのせいで顔が緩んで「えへへぇ...雅ぃ...好き...」と、ただただ愛情表現ミスった女の子みたいになってしまった。
それでも雅は笑顔で私の頭を撫でてくれた。
それをチラチラ見ていた一花さんは、
「尊い!尊い!まじ尊い!」
と、涙しながら家へと向かっていった。
私たちは家に着くと荷物を持って、エレベーターで登り、玄関を開ける。そこで待っているのは
「おかえり〜!」
「河野さんから聞いたよ。大変だったね。」
楓と奏多くんが出迎えてくれる。
私は家に入ってリビングのソファーに座るなり、楓にさっきの事件の愚痴と雅のかっこよかった所を熱弁した。
普通なら頷くだけなのに楓はしっかりと話に乗ってくれた。
私は風呂に入って『あぁ。日常に戻ったのね。』と実感したのであった。
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