第2話 (僕+私)は有名人?
校長室に沈黙が流れる。
「まずこの動画を見て欲しいわ。」
河野さんが僕らの元にタブレットでとある映像を見せてきた。
そこには〈幼き少女を護ったS級美男子と彼の元に駆けつけたS級美少女!〉と書かれた字幕とともに、救急車に乗りながら、「彼女との約束があるから」と、頑なに救急搬送を拒む雅と、それを見て駆けつけてきて、雅を心配し、第一優先にする京の動画が映し出されていた。
「これは...」
「まだまだあるわ。」
雅は見覚えのある動画に言葉を挟むが、河野さんは止まらない。
河野さんは写真を見せてきた。
処置室の隣の待合室で号泣する京の写真。
そこにはICUでたくさんの機会に繋がれて寝たきりの雅とそれを目を真っ赤に腫らしながら見守る京の写真。
朝日が差し込む病室で涙を流して抱き合う雅と京の写真。
そして重なるように微笑みながら眠る京と雅の写真。
計四枚の写真と一つの動画が超有名SNSアプリで投稿されていた。それも...
「あなた達の関係するものは、トレンドで一位になっています。」
「「!?」」
二人はこの瞬間色々なことに驚いた。
まず芸能界に誘われたこと。
自分が世間でS級とまで称されたこと。
そして自分たちしかいなかったはずの病室に誰かがいた事。
二人は河野さんに聞きたいことがいくつもあった。が、
「質問したいことも沢山あると思うけど、まずは話を聞いて欲しいわ。」
と、その質問は後回しにされ、先にこの話をまとめることにした。
「今あなた達を特定して自分たちの事務所に引き抜こうという輩が出回っているわ。恐らく学校を出る頃には数名のスカウトマンがあなた達に声をかけるでしょうね。」
「じゃあッ!?」
京の言葉に河野さんが待ったをかける。
「そう。あなた達は下校、登校をするのが困難になるでしょうね。しかも雅くんは私の娘を守って危ない状態。」
「えぇ。あまり人に揉まれるのは身体によくありません。京も女の子ですし。」
雅は素直に答えた。それに河野さんは「えぇ。」と言った後に二人に提案をした。
「そこであなた達を娘を助けてくれた恩人としてそんな状態を回避させてあげたいと思っているの。」
二人はその提案にどうやって?とは聞かない。河野さんは話を続ける。
「まず、あなた達四人には同居してもらおうと思うのよ。もうマンションは取ってあるわ。」
「「えっ!?」」
流石にその提案には二人とも驚いた表情を見せた。
「マンションから車でそのまま学校に登校すれば問題ないでしょ?」
「確かにそうですが...」
と、雅は心の中で『それは恩返しとしては過剰だ。』と、一瞬思ったが『もしかして...』と次の河野さんの言葉を予想した。
「でも、これは恩とは言え少し度が過ぎる。なのでこの提案です。二人とも、私の事務所に所属だけでもしませんか?」
『やっぱりだ。』
そこで河野さんは言葉をつけ加える。
「もちろん大学生までは学校生活に支障をきたす活動はさせません。休日もたまに一日だけ使わせてもらうかもしれないけど基本あるわ。もちろん給料は出るわ。」
魅力的な提案だ。僕と京の身の安全を確保すると同時に、親友も一緒にすることで不純な行為をさせにくくし、相手の利益と言えば(まあ利益になるかは分からないが)メンバーが増える。
なるほど、利害は一致している。京の方をむく。京は『おかしな所は無いと思うわ』と言う顔をする。僕はそれを見てその話に頷くことにした。
「分かりました。今の僕たちには必要な身の周りの安全と、そちらの人員補充、こちらの休日放課後一部の縛りとマンション、送迎のそちらの負担。利害は一致しています。その話、ありがたく受け取らせて頂きます。」
この返答に河野さんは「おっ!?」という顔をした後に
「ありがとうございます。では手続きをお願い致します。あ、ちなみに既に二人のご両親には了承を得ております。」
『まあ、だろうね。』
『でしょうね。』
と二人は自分の親を想像しながら思った。恐らく四枚の写真の方は二人が載っけたものだろうと京と雅には予想が着いていた。
二人は諸々の書類に目を通してサインし、持ち歩いている印鑑を押した。
途中事務所の名前を見て二人は目を合わせて驚いたが、それ以外問題のありそうな文は見当たらなかった。
「ありがとう!これであなた達も安全だわ。本当に娘を助けてくれてありがとうございます。」
「いえ、気にすることはありませんよ。」
河野さんは「謙虚なのね...」と二人に言って、「授業中だろうけどごめんなさい、太宰くんと伊勢さんも連れてきて欲しいの。」
と僕らにお願いをする。僕らは「はい。少し失礼させていただきます」と、二人で立って校長室を出て二年特A組の教室をめざした。
授業中で静かな廊下を歩いている中、京が口を開く
「河野さん...あの人何者なのかしら...」
「さあ...でもテレビ局ですごい力を持ってそうなのは確かだ。」
「そうね。」
二人の貰った書類には日本でもトップクラスの事務所名が出てきていた。そしてそこに署名した。
『話の進め方が上手かった、今回は利害が一致していたが、相手の将来の長い話での利を提出するのではなく、今その人が欲しいだろうものを利として提出していた。河野さんもやろうと思えば自分の利をほとんど取って契約を成立させることもできるのでは無いのだろうか...』
僕は少し河野さんを警戒することにした。
「にしても、よく同居を認めたな。」
「もう一回ひとつ屋根の下で寝たじゃない。」
「誤解を招くような表現をするもんじゃない。」
「でも楓も奏多くんもいることだし、」
「それもそうだな。」
二人は二年特A組に向かうのであった。
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読んでくださりありがとうございます。
もしこの作品を気に入って下さったら、次回も是非よろしくお願い致します。
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