"春夏秋冬の花嵐"編
第一章 新城下の名物
第1話 (僕+私)は桜と椿
時は雅と京が結ばれた瞬間。
雅の病室の外で二人の女性が何やら怪しげな会話をしていた。
「これでいきましょう」
「ええ。にしても久しぶりに話せて嬉しいわ。」
「二人も結ばれて、また話し合える機会も増えるわね」
「ふふふ」
------------1週間後-------------
「久しぶりだね。雅、体調はどうだい?」
「まあ頭と胸に刺激がなければ問題は無い。」
「そうか、なら良かった。球技大会は秋だからね。」
「そこまでには間に合う。」
雅は近所の奏多と一緒に久しぶりの登校をしていた。二回くらいお見舞いに来てくれたが、そのうち一回は僕は眠っていたので知らない。
「そうか、にしても親友の機械に繋がれた姿は痛々しくて見ていられなかったよ。」
「すまなかったな。」
奏多とは幼稚園の頃からの親友。小中共に全国大会に出た思い出もある。そして高校も同じ学校で二年連続同じクラス。
少年時代を全て奏多と一緒に過ごしたと言っても過言ではない。
二人は互いをよく知っている。次に何を言ってくるか、どう返してくるか、どうリアクションを取るか、その顔はどんな顔なのか、それを知っているから互いの行動には基本驚かない。
しかし奏多はここで雅に思わぬことが起こり、驚く。それは二人が校門を通り過ぎた時の事だった。
女子生徒が近づく。
「雅、おはよ。」
そう冷たいような声を雅の耳元で囁いた後にその少女は雅に優しく抱きついた。
「ああ。おはよう京。」
軽く微笑みながら朝の挨拶を返す雅。それを見た周りの男子女子だけでなく、親友の奏多も驚きの声を上げた。
〈ぇぇぇぇえええええっ!?〉
そこら一体がその叫びの後に静まり返った。
「行きましょ。」
「ああ。」
雅に話す時だけ涼し気な笑みを見せ、腕を組んで歩き始める京。
その京に春のような暖かい笑顔で返して引っ張られるように歩く雅。
動きが停止し、静まり返った校門付近。それを一人の少女が解く。
「なーに固まってんのよ。行くわよ奏多〜」
「そ、そうだね...」
楓が固まった奏多の腕を取って二人で京と雅を追うように歩き始める。
この出来事は一時間もしないうちに学校中に広まったのであった。
-------------------------
「春夏秋冬の花嵐ね〜、随分な言い様よね。」
「どういうことだい楓?」
昼休み、昼食を四人で机を並べて食べてる時に楓が聞き慣れないワードを言葉にした。
「私たち四人組の周りが着けた名前よ。」
「どういう意味での春夏秋冬の花嵐なんだ?」
今度は雅が楓に質問した。
「冬の雪の中の椿のような京、春の暖かい日に当たった桜のような雅くん、夏の向日葵のように笑う私、秋の楓の様な変化が早い奏多の四人に起こった恋の嵐という意味なんだって〜」
「上手いこと言っているようだけど、楓は楓じゃなくて向日葵だし、楓という植物は花じゃないのよね。」
京が『私達を見世物にするとか気に食わん』とでも言わんばかりにこの噂を批判する。
「まあそこはいいんじゃないか?」
「そうね。そういうことにしておきましょう」
雅の言葉には素直に頷く京に奏多と楓は苦笑いをする。
「でも、なんで私達がそんなに有名になったのかしら。」『雅が付き合っただけで何で男子も騒ぐのかしら...』
「そうだな。そこが問題だ。なんでこうなったんだ...」『京が付き合っただけで何故女子までもが騒ぐのだろうか...』
こう疑問を持つ二人に、奏多と楓を含めたクラスメイド達が、
『あの雅くんが付き合ったからでしょ!?』
『あの京さんが付き合ったからだろ!?』
と、男女別々に心の中でツッコんだ。
全くその通りだ。二人は自分がもてているという自覚がない。
だが、明らかにこのカップルは新城下高校ベストカップル。学園のプリンスとプリンセスが結ばれたとなればそれはもう大ニュース。噂になっても当然だ。
と、そこで四人の話をしていると呼び出しの放送がかかった。
ピーンポーン
〈二年特A組の橿原雅君、出雲京さん。至急二階、校長室までお越しください。繰り返します...〉
「え、僕なんかしたか?」
「私も何かしたかしら?」
二人とも呼び出されるような悪行をした覚えはない。が、呼び出された以上行かないという選択肢はない。
「まあ、行ってくるわ。」
「私も行ってくるわね。」
二人は楓と奏多にその一言を言って校長室へと向かった。
「事故のことかしら?」
「かな...裁判とかの話かな...」
二人はあの事故で何か自分達の方に何か問題があったのではないかと考えながら静かな廊下を二人並んで歩いた。
そして校長室の前に到着し、二人で大きく深呼吸をしてから
コンコン、「「失礼します。」」
と言うと、中から
「はいどうぞ。」
という控えめな声で返事があった。
僕らは校長室の立派な扉を開けて中に入ると、校長先生と見覚えのない女性が座っていた。京は『あら?どこかで見た覚えが?』という顔をするが、それに気にせず校長先生が僕らの元に来て、
「こちらが橿原で、隣が出雲です。二人、挨拶を。」
と言われたのでとりあえず座っている女性に挨拶をした。
「二年特A組の橿原雅と申します。」
「同じく特A組の出雲京と申します。」
二人は名を名乗ると深く礼をした。
すると今度は座っていた若い女性が立ち上がって挨拶をする。
「初めまして。私は河野奈々と申します。急にお呼び立てして申し訳ありません。」
「いえ、こちらこそわざわざ足を運んでくださり、ありがとうございます。」
と雅が言い、京と二人で頭を下げる。二人の臨機応変な対応に校長先生も河野さんも一瞬驚くが、河野さんが話を続けた。
「まず、轢き逃げ犯から私の娘を助けて下さりありがとうございます。」
と僕らに深々と頭を下げた。京は思い出した。『号泣してる小さな女の子を抱き抱えていた人ね。』と、
そして続け様に河野さんはこう言った。
「おふたりとも、役者に興味はありませんか?」
この瞬間校長室に一瞬の沈黙が流れたのだった。
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読んでくださりありがとうございます。
もしこの作品を気に入って下さったら、次回も是非よろしくお願い致します。
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