第4話 私の休日と言葉にならない悲劇

今回の話は少々重めの内容になっております。ご理解の程よろしくお願い致します。

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土曜日になった。私は朝の6時に起きて、お風呂に入り、雅とお揃いのシャンプーとトリートメントで髪の毛を洗い、風呂を上がる。


なぜ土曜日にそんな入念な準備をしているかと言うと、雅と二人きりで出かけることになったからだ。


-----昨日、橿原家勉強会にて-----


「僕明日服を買いに行くんだが、誰か一緒に来てくれないか?」


雅が、これからの季節に着る服が小さくて無いから買いに行きたいから一緒に誰か来てくれないかと誘ってきた。


私は迷わず手を挙げた。


「私は行きたいわ。」

「ありがとう。京が来てくれると助かる。」

「僕は明日楓と出かけるんだ。申し訳ない」

「ごめんねぇ雅君!」


私以外は来ない!?これは...キターー!私の時代。


「いや、こちらこそ急な申し出ですまない。2人とも楽しんできてくれ。」

「ありがとう!楽しんでくるよ、」

「あざーっす!」


『ヤバイヤバイ、ヤバいわ!これってデートじゃない!今日はしっかり寝て準備しないと!』


「じゃあ私達二人かしら。」

「そうなるな。」

「よろしくお願いするわ。」

「ああ、こちらこそ。明日の9時に駅前な」

「ええ。了解よ。」


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ということがあったのだ。


私はとにかく今まで以上に念入りに準備したわ。


自慢するほどではないけど、私はそれなりにオシャレなのだ。でも、今回服装に本気は出さない。


なぜなら本気でオシャレしたら雅に『あれ?京もしかして今日楽しみにしてた?』なんて言われてバカにされたり、私が雅のことが好きなのがバレてしまう(もうバレてます。)。


なので、それなりの服装で、『少し遠出しますよ』くらいのラフさの服装にした。


「日焼け止めOK!リップOK!お財布OK!」


私はそれを口に出して確認する。


「あらあら、もしかして雅君と2人でお出かけかしら?」

「なんでわかったのよ!?」


玄関で持ち物の確認をしていたらお母さんから「バレバレよ!」と笑われた。


「だってそんな生き生きした京は初めて見るもの。」

「な、なんだ、それだけね。」

「ええ。服装は普通ね。もしかして張り切ってるって思われたくないとかかしら?」

「うっ...」


またまた真意を突いた発言がお母さんから飛び出してきた。


「京も私の子ね!」

「なるほど、過去の経験という事ね。」

「そうそう!じゃあな楽しんで来てね〜」

「行ってきます!」


私は玄関を出て駅まで軽い足取りで向かった。


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私は集合場所の駅に到着した。やけに周囲がザワついている。


『何かあったのかしら...』


集合時間まで余裕があるので私はその近くまで寄ってみることにした。


するとそこには救急車。後ろの扉が開ききっており、車の中から外に足を出すように座って頭から流れる血を押さえながら「大丈夫です。大丈夫ですから、」と救急隊員に問題ないと笑顔で搬送を断る美青年の姿があった。


近くで小さい子がお母さんらしき人に抱き抱えられながら号泣している。


たくさんの警察官が周りの人達に情報収集している。


近くにいる人に話を聞いてみると、


「轢き逃げ事件が起きたんだ。高校生くらいの男の子が小さな女の子を庇って撥ねられたんだ。」


私は高校生の男子というワードに懸念を抱いて騒ぎの中心に駆け付けた。


私はその美青年に見覚えがあった。いや、見覚えがあったどころの話ではない。あれは...


雅だ。


『え!?雅!?』


私はすぐにそこに駆け寄った。


「雅!?何があったの!?」

「ああ、問題ない。さぁ行こうか...」

「駄目だ!君!」


雅は問題ないと立ち上がって買い物に行こうとする。しかしそれを救急隊員が止める。


「お嬢さんですか?お嬢さんからも言ってあげてください!彼さっき小さい子を庇って40キロで走る車に跳ね飛ばされたんですよ!」

「!?」


私は驚いた。まず雅が40キロで走る乗用車にはね飛ばされて倒れず意識もはっきりしていることに。そしてそんな状態なのに私との買い物に行こうとしてくれてることに。


よくわからないけど私は彼をこの状態にしておくのはマズいと思った。


今我慢しなければ今後の雅が危ないかもしれない。そう思った。


「雅、病院に行きましょう。」

「え?」

「今は大丈夫でも後から急に状態が悪くなることもあるのよ。」

「でも...」

「隊員さん!お願いします。私も乗ります。」


こうして私たちは救急車で市の大型病院へと向かった。


京は雅の容態だけが気がかりで隊員の〈彼女さん〉という言葉に気が付かなかった。


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苦しそうな顔をする雅。段々と表情が険しくなってくる。彼の手の平から凄い汗が出てきた。


私はゾクッとした。『これは...マズイのかもしれない...』


「すいません!雅の手のひらに汗が!」

「本当か!?」


私は救急医の人に向かって叫んだ。


私の父さんは救命救急医だ。その父さんが言っていた。


『運ばれている意識がある患者さんでも、手のひらから汗が出てきたら命に関わる怪我を負っている可能性がある』と。


すると病院に到着した途端に雅の容態が悪化する。


「聞こえますかー!橿原さん!聞こえますかー!聞こえたら手を握ってください!」

「雅ぃー!!雅ぃー!!」


私は必死に雅の名前を呼び続けた。


雅の手は救急医の手を握らない。完全に雅の意識が落ちているように見える。ただ、呻き声はあげているし、痛みには反応している。しかし呼び掛けには反応しない。


もちろん私の呼び掛けにも...


すると、通路の奥から高度救命救急センターで働く私のお父さんが駆け寄ってきた。

「京!」

「お父さん!お願い!助げでぇ!」

「わかってる。任せなさい。」


私は泣きながら父さんに必死に頼んだ。お父さんは「大丈夫」と言って雅を乗せた担架と共に処置室に向かっていった。


私が入れるのはここまで。


父さんと救命医の人たちが雅の容態を話しているのが聞こえてくる。


〈バイタルチェックだ〉

〈脈拍〜、呼吸〜、血圧〜、体温〜、意識レベ〜ルです。〉

〈肋骨の骨折と頭蓋骨の損傷の可能性があります。〉

〈わかった。すぐレントゲンだ。〉

〈はい。〉


私はこれ以上聞いているのが怖くなり、待合室に戻った。


こんな休日になるはずじゃなかった...


私はハンカチで目を押さえながら声を上げずに号泣した。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入って下さったら、次回も是非よろしくお願い致します。





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