第三章 日常...
第1話 (僕+私)の家族と話
「ただいま。」
「おかえり〜」
僕は親睦旅行から帰ってきて家の玄関を開けた。「ただいま」と言うと奥から母さんが「おかえり」と玄関まで駆け足で来る。
「どうだった?」
「まあ、色々あったよ。」
「へ〜」
単調な話だが、親子の会話なんてそんなものだろう。
リビングに入って洗濯物や制服を片付けると二階から駆け足で誰かが降りてくる。まあ家族であればその足音で誰かがわかる。
「ただいま
「おかえり兄貴〜どうだった?」
「母さんと同じ質問するな。」
百合は二つ下の中学三年生。今年受験生だ。志望校は僕と同じ近所の新城下高校だ。特徴としては、性格といい見た目といい母さん似だ。
母さんはマイペースな性格で、顔もそのイメージのままだ。百合は目が父さん似で他は母さんに似ている。
母さんの目はぱっちりとした穏やかな目。父さんの目はキリッとした目。
逆に僕は目以外は父さん似。
母さんはとにかく明るい。性格は若干楓さんに似た感じだ。百合も同じだ。
と、そこで急に母さんが爆弾をしかけた。
「所で雅、意中の子とはどうなったの!?」
グッと顔の目の前まで顔を寄せて、目をきらきらさせながら聞いてきた。
母さんには京に恋心を抱いた時には既にバレていた。しかし百合はそれを知らない。この二人は好奇心の猛獣だ。つまり百合が知らないから母さんのこの発言は爆弾なのだ。
もちろん百合も顔を目の前まで寄せて、目をキラキラさせながら、
「どういうこと!?兄貴!?どういうこと!?」
と質問攻めにする。
「あ〜後で説明するからどっかいっとけ」
「今しなくちゃ兄貴はしないでしょ!?」
「あ〜ハイハイわかりましたよ〜」
好奇心を持った百合は面倒だから百合を適当に放っておこうとしたが、今回ばかりは逃げきれなかった。
そして百合に自分が好きな人がいることを話した。家族に自分の好きな人を話すとか地獄にも程があるが、この家族である以上いつかは話さなければならない運命なのだ。
「へぇ〜可愛い女の子を尽く振ってきた兄貴が自分から恋するなんてね〜、世の中何が起こるか分かりませんな〜」
「バカにしてんのか」
「いいえ〜全く〜」
つくづくムカつく妹だ。妹に理想を抱く紳士の方々も非常に大勢いらっしゃるが、実質兄妹なんてこんなものなんです。
「こら百合、人の恋を馬鹿にしちゃいけないじゃない!確かに顔はいいくせに恋愛には無頓着な雅が恋することは珍しいけどそれは言い過ぎじゃない!?」
「あんたがそれを言うか?」
結局母さんまで馬鹿にしてくる。
「で!で!どうなったの!?」
「多分あっちも俺のことが好きだ」
「「Foooooo!!言うようになったね〜!?」」
「馬鹿にするな〜」
事実を述べたまでだ。
「にしてもなんで兄貴が好きってわかったの?」
「まあそれはな...」
雅は百合と母に事の経緯を話したのだった。
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「ただいま」
「おかえり〜」
私は親睦旅行から家に帰ってきた。玄関を開けてただいまを言うとお母さんが私を出迎える。
「で!その男の子とどうなったのかしら!?」
「落ち着いてお母さん。」
リビングに入るとお母さんは雅とのことが気になって気になってしょうがないのか、どこまでもついてくる。
私似の冷ややかな目を持っているのに、それを感じさせないくらいとても明るい人だ。
「正直分からないわ。でもタメ口で話すようになったし、私の事も京と呼んでくれるようになったわ。ついでに本性も現してきたわ。」
「そうなのね!そうなのねぇ!?」
母は満足そうだ。それこそ女王様みたいな見た目をしてるくせにものすごく甘えんぼうな母さんは、怒るとものすごく怖い。でもなかなか怒ることは無い。
一番最後に怒ったのは二つ上の兄さんが小学生六年生の時、私と同い年の子に野球の大会で全打席三振取られ、打席に立ってはホームランを打たれた時にその子に「年下のくせに!生意気な!覚えてろよ!」と叫んだ日の夜だった。
私が家に帰ると明らかに目に見えてるのかなと思えるほどの冷気みたいなものを放っていた。いつもの笑顔はなく、そこにいる人を蔑んだ目で見る本当の氷の女王様だと思ったのを私は今でも鮮明に覚えている。
この後一週間くらい兄さんには口を聞かなかったのを覚えている。
すると昔怒られた兄さんが二階から降りてきた。
「いたのか京」
「容易く呼ばないでくれるかしら。」
「じ、じゃあなんて呼べばいいんだ!?」
「その少ない脳でゆっくり考えなさい。」
「ひどっ!?」
これは一種の戯れだ。兄は怒ったお母さんがトラウマで、お母さんに物凄く似た私が怒った時のお母さんの真似をすると、兄さんがいちいちビビっては大袈裟な反応をするのだ。
「で、話は聞いていたんだが、京の好きな人ってどういう人なんだ?」
「橿原 雅くんと言って物凄く素敵な方よ。それはもう兄さんとは比べ物にならないくらいによ。兄さん?」
私が雅の名前を出した瞬間に兄さんが固まる。知り合いなのだろうか...
「そ...その名前は...城南小のあの橿原...か?...」
「ええ。多分中学からしてそうだと思うわ。」
「なぁ!?」
兄さんが足から崩れ落ちる。これは完全にトラウマを思い出させてしまった時のリアクションだ。
「雅がどうかしたのかしら」
「そ、そいつは...」
「雅は?」
「俺が全打席ホームラン打たれて、俺から全打席三振を取っていったやつだ...」
「あはぁ〜なるほどね、」
兄さんがお母さんに怒られた原因となる兄さんが完敗した相手が雅だったわけね。
「京、お前...そんなやつを好きになってしまったのか...」
と、ここで私の中の何かがプチッと切れた気がした。
「ねぇ。今なんて言ったのかしら。」
「...え?」
声色が急に変わった私に兄さんが驚きとあっけに取られた「え?」の一言が漏れる。
お母さんは「あらあら」と嬉しそうに、ニコニコしながらこっちを見ている。
いつの間に帰ってきたのか、お父さんもリビングの扉で私を見て足を止めてカバンを落とした。
私は言った。
「ねぇ。今なんて言ったのかしらって言ったのよ。それを考えるくらいの脳はあるはずなのだけど...そうね。まず何故あなた程度の人間が雅を蔑んだような言葉で語るのかしら。まずそれが気に食わないわ。まず鏡を見たらどうかしら、雅は学校中の美女から告白される御方なのにそれを全て拒否し謙虚でいらっしゃる御方よ。貴方みたいに一人の女の子に告白されてそれをわざわざ妹である私に自慢するような恥ずかしい人間ではないわ。第一普通に人を馬鹿にできるという時点で終わりよ。人を語る価値もないわ。そこをわかっているのかしら━━━━」
この後一時間ほど京の説教は続いた。
それから一週間京は兄の口を聞かなかったという。
親子はやはり似るものだなと京の父は一瞬母を見てから思ったのであった。
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読んでくださりありがとうございます。
もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。
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