第12話 (僕+私)の山菜とカレー作り
僕ら四人は集合15分前にホテル前の広場に荷物を持ってクラスメイトの集合を待った。
今から僕らは山菜を取りに行く。山菜は日の出付近の時間に取りに行くことが多い。4月下旬の日の出は5時15分頃だ。
この場所から取れるエリアまでおよそ10分かかるので、5時集合というのはちょうどいい集合時間だ。
「京は山菜食べられるのか?」
「ええ。大好きですよ。」
「そうか。俺もだ。」
山菜は好みがしっかりと別れる。この山菜摘みの後にカレー作りをするのだが、そのカレーに山菜を入れるには、全員が山菜を好き、または普通でなければならない。
苦手な人がいる班は普通のカレーだ。
「私も山菜は好きだよー!蕨とか特に!」
「僕も好きだね。特にふきのとう。」
どうやら僕の班は全員が大丈夫のようだ。
「5月手前だから、ふきのとうはこの季節がよく取れるが、蕨はまだ早いな。もしかしたらあるかもしれないが、あまり期待しない方がいいだろう。山ウドやタラの芽なんかは取れるだろうな。」
「詳しいのね。雅。」
「ああ。山菜は好物なんだ。時期は把握している。」
『しかしこの季節に取れる山菜はカレーには...合いそうにないな...まあ工夫するか...』
蕨はカレーのルーに入れても合うだろうが、ふきのとうなんて合うどころか、味が強すぎて口の中で大喧嘩を始めてしまう。山ウドもタラの芽も同じだ。
この三つは香りや苦味を特徴とするから、どうもカレーとは合わなそうだ。
『どうもカレーに合うような山菜は少なそうだ。蕨があればそれだけカレールーに入れられるかと言ったところだ。あとは刻んで香り付けや味変の薬味みたいにして食べるしかないかな...』
雅は頭の中でレシピを考える。そうこう考えているうちに集合時間になった。
〈今から山菜刈りを開始する。早朝の山の中は危険だ。くれぐれも足元に気をつけるように。山菜は必ずパンフレットの特徴通りの物だと確認してから摘むこと。ではいこうか。〉
〈はい〉
生野先生の合図で特A組の生徒は目的地へと向かい始める。相変わらず生野先生は行動が早いし、効率もいい。『先生に恵まれたな』とほかのクラスを横目に僕は心の中でひっそりと思った。
ついでに山菜刈りといういかにも駆逐するぞみたいな表現が先生っぽくてつい「ふっ」と笑ってしまった。
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私たちはとうとうアスファルトの道から山道に入った。砂利の道を登っていき、山菜が生えているエリアに入る。
〈では、散らばれ。山菜刈り開始だ!〉
〈はい〉
皆各々班ごとに散っていく。私たちは雅を頼りにもう少し山の奥へと進んでいく。
腐葉土が溜まった地面から小さな茎がいくらか生えているところで雅は足を止めた。
「フキだ。早いな。」
どうやら山菜を見つけたらしい。私たちの足元にはクルクルと渦を巻いた若葉色の茎。
それを雅はつまんでカゴへと入れていく。フキはこの4月下旬から5月上旬に取れるものでは無いが、例年より暖かかったのだろうか。食べれれるくらいにまで成長していた。
「雅、これは食べられるのかしら?」
「ああ。フキと言って煮物にすると美味しいんだ。カレールーには合わないだろうが、先生から貰える出汁で煮詰めれば美味しいだろうな。」
と、解説してくれた。雅によると、赤い筋が入ったフキはあまり美味しくないので取らないようにとの事だった。私たち4人はとりあえずフキを取り始めた。
そこで私はあるものを発見した。
地面からちょこっと生えた真っ赤な茎の根元のようなものと、そこから生えた黄緑色の小さな葉っぱの植物。
いかにも山菜っぽい
「雅!これって山菜かしら?」
私は雅を読んで確かめてもらった。
「よく見つけたね!これは山ウドだ。れっきとした山菜だよ。この赤い部分から摘もう。」
よーく探してみるとここら一体に山ウドは生えていた。『山菜取るのって楽しいわね...』京は山菜を見つけるという行為に少し快感を得ていた。
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〈よし!今からカレーを作る!山菜が大丈夫な班は自由に入れてくれ!調味料や出汁が必要な班は申し出てくれ!天ぷらを作りたい班も申し出るように!〉
どうやら天ぷらも作れるらしい。それは助かる。
僕は直ちに手を挙げて、「天ぷら作らせてください!あと出汁もお願いします!」と申し出た。二つは欲張りすぎたかなと思ったが、先生は快く僕にセットを渡してくれた。
さあ...料理開始だ!
今回取れた山菜は山ウド、ゼンメ、フキノトウ、コシアブラそして、季節外れのフキだ。
一つの山にこんなにあるものかと思うが、恐らく自然学校のためにわざわざ植えたりしていたのだろう。
山菜は取った後に専門家の人に一つ一つチェックしてもらっている。
「よし、じゃあカレーは京に任せていいか?」
「ええ。」
カレー作りを僕は京に任せた。僕は天ぷら担当だ。残りの二人は包丁を持つと危ないとのことなので、大人しく座らせることにした。
「ねぇ。私たちダメダメじゃない?」
「今に始まった話じゃないさ。この二人が完璧すぎるから余計哀れに思うだろうけど、そこは気にしちゃいけない。」
二人は雅と京の手際が良い料理の様子を見て、大人しく席についていたのであった。
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「はいおまたせ。」
「待たせたな。」
二人同時に料理が完成して、大自然の中のテーブルに料理を並べる。
〈おぉぉおおぉぉ...〉
周りの班からも人が集まってくる。
机の上には京が作った牡丹肉ともみじ肉を使ったカレーと、僕が作った山菜の天ぷら、そしてフキのお吸い物。
お肉は先生が豚、牛、牡丹、もみじの四種類から選ばせてくれた。皆馴染みのある牛や豚を選んでいたので「せっかく山に来た事だし」ということで残った二つを頂いた。
テーブルに並んだ完璧な3点の料理の前に皆が息を飲む。
先生はどこかの班のご飯を頂くという事だったので、周りの注目を浴びた僕らの班の所にすぐ駆けつけてきた。
「これ...橿原と出雲が作ったのか?」
「はい。」
「ええ。」
「うぅ...私なんか料理という工程すらまともに出来ないというのに...お前らは...」
と泣きながら「いただきます」と言って美味しそうに召し上がられた。
周りは〈あ〜生野先生ずるいー!〉とか〈俺も食わせてくれ〜!〉という声が聞こえてくるが、先生は無視。
僕らはかなり余ったので、「みんなで分けるなら、残りはどうぞ。」と鍋を皆に渡す。
そこからクラスメイトの鍋の争奪戦が始まった。三つも料理があるのだから奪い合いなんてしなくてもみんな食べられるくらいには残ってた。
でも楽しそうなので放っておいた。
少しすると、先生が料理できないということに、奏多や楓さんが『確かに出来なさそうだな』という顔をした。すると先生はその視線に気づいたのか、
「太宰も伊勢も人のこと言えた話ではないだろう!」
と勝ち誇ったような顔で言い返した。
それを見た皆が笑い、雰囲気のいい朝食となった。
食べ終わったあとは楓さんと奏多が「僕達は何もしてないからね」と、皿を片付けてくれた。
これで全ての行事が終わり、僕らの親睦旅行は幕を閉じることとなった。
帰りのバスでは僕以外の皆が疲れて寝てしまい、僕はまだ昼前のバスの車窓を、寝る京を視界に入れながら、ぼーっと眺めるのであった。
車窓から見える緑は段々となくなっていき、住宅地、工場、ビルが目立つようになってきた。
たったの二日間なのにかなり長い時を過ごしたように感じた。感じる時間は短かったが、終わってふりかえってみると密度が高すぎて長く感じるというものだ。
登山を始め、本木の件、京の名前呼び、奏多下着事件、テーブルマナーのこと、いじり合い、早朝のベランダのこと、京の好きな人のこと、山菜、朝食のこと、
この二日間で色々とありすぎた。
『僕は京を幸せにできるだろうか、いや、してやらなければならないんだ』と決めた今日の朝から、もっと早く京を知りたい。そう思い始めていたのだった。
「明日からは日常に戻る。まずは学校生活だな...」
と、軽く呟いて雅も目を閉じるのであった。
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読んでくださりありがとうございます。
もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。
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