第11話 僕の10°Cの夜風と決意の朝

朝3:30、僕はホテルの目覚まし時計のアラームを止めて目を擦る。


京はまだ、すやすやと眠っている。


外はまだ暗い。僕は布団から出て、京を起こさぬようにゆっくりとベランダに出る。


「ん〜っ!!」


ひんやりとした空気の中、大きく伸びる。山の中の早朝の冷たい空気は目覚めに丁度よく、気持ちがいい。


昨日買っておいた缶コーヒーを開けてゆっくりと飲む。


「ふぅ〜」


と、一息ついて真っ暗な森林を眺める。


少しすると後ろからドアが開く音が聞こえてきた。京だ。


「おはよう。」

「ええ。おはよう。」


京は挨拶すると、僕と同じように「ん〜っ」と反るようにして伸びる。


かなり立派なものが強調されるが、朝の、しかも冷えた頭でそこに興奮する雅ではない。


目の前には大森林が広がっている。


「気持ちのいい朝ね。」

「ああ。」


「...」

「...」


二人は無言で外の景色を眺める。僕はこの早朝の無の時間がどことなく好きだ。


ひんやりとした空気が朝の寝ぼけた僕らの思考回路を正常な状態に戻すよう作用する。目が覚めた僕は準備を始めることにした。


「さぁ、準備を始めますか〜」

「えぇ。私はお風呂に入るわね。シャンプー使わせてくれないかしら」

「ああ。カバンの横にぶら下がっているポーチに入っているはずだから、そこから持っていってくれ。」

「了解」


約束していた自分のシャンプーの場所を京に教えて、シャンプーの場所を確認した京が先にベランダを後にして脱衣所へと向かっていく。


僕は残ったコーヒーを一気に飲み干して一息ついた。すると、隣からドアを開ける音が聞こえてきた。


足音が少し近づいたと思ったらすぐに止まった。


「おはよう雅。よく寝れたかい?」

「どうやらそっちも寝たようだな。」

「ははっ、雅は僕が本当にするとでも思ってたのかい?」

「まさか」


雅はそう一言寝起きの奏多に返して部屋に戻って行った。


僕は缶をホテルのゴミ箱に捨てて部屋着を脱ぎ、靴下を履いて、ワイシャツを着る。次に制服のズボンを履き、ネクタイを閉める。ネクタイピンをつけて白いトレーナーを着て、その上からブレザーを着る。


前髪をクシで梳かし、京が風呂から出ない内に顔を洗ってすぐに荷物を纏める。


隣の部屋から〈楓ー!間に合わないよ!起きてー!〉


と聞こえてきた。どうやら楓さんは朝に弱いようだ。声は聞こえないが〈ん〜まだ〜大丈夫だって〜〉と寝ぼけたことを言っているのが想像つく。


脱衣所からドライヤーの音が聞こえてくる。京が風呂を上がったのだろう。僕は朝(深夜)のニュースを、ベッドに腰をかけながら見る。


空いたままのドアから冷たい空気が流れ込んでくる。何度も言うが、気持ちがいい朝だ。


また隣の部屋から〈ああぁぁあああ!!寒いー!!閉めてー!!〉と楓さんの嘆きが聞こえてきた。起きない楓さんに苛立って奏多がベランダのドアを開けたのだろう。


少しすると京が制服を着た状態で脱衣所からでてきた。


「お待たせ。」

「いや、おまたせも何も、待ってないけどな。」

「それもそうね。」


単調な会話が無音の室内に響く。時刻は午前4時15分。


「することも特にないし、夜風にあたりに行こうか。」

「ええ、そうね。」


僕らは集合時間まで散歩道を歩くことにした。二人は五分かけて散歩ロードに入り、静かな夜道をゆっくりと歩く。


「雅。」

「なんだ?」


京が雅に声をかける。


「前に雅は私に自分には好きな人がいる的なことを言っていたわね。」

「ああ。」


唐突な話だが、朝だからなのか、雅は何を話されてもいい気分でいた。


「私にも好きな人がいるのよ。」

「そうか。」

「ええ。」


雅は少々驚いた。早朝ということもあり、声が出るほどは驚かなかった。そして自分でも意外なほど落ち着いた返事が出た。京は話を続けた。


「その人はね。私を守ってくれる人なのよ。そして結構意地悪だわ。でも、こんな見た目から無愛想な私と普通に接してくれたわ。」

「そうか。」


雅は京に好きな人がいたということにショックは受けない。それどころか、今の話を聞いて余計に納得してしまった。雅は薄々気づいていたのだ。


「ええ。私の夢はそんな彼と結ばれて、将来を共にしていくこと。例え私が彼とつり合ってなかったとしてもよ。」

「そうか。いい夢じゃないか。」


『つり合ってないだなんてとんでもない。釣り合ってないのは。』


そう。雅もう気がついていたのだ。京が雅のことを好きだということを。


『ホテルの部屋で一緒になることを強要する時点でおかしいとは思っていた。遊園地の時もそうだ。好きでもない人に貴方と二人で回りたいだなんて普通は言わない。いや、正確にはそう言ってはいないが、ほぼ同じことだろう。そして昨日の話し方のことだ。奏多には奏多君と言っている。そこで差別化をしている時点でもう分かる。今の京の発言だって昨日やその前から僕が京にしてきたことだ。』


本当は雅もそれを知った時点で思いを伝えようとした。伝えようとしたのだが...


『彼女みたいな魅力的すぎる人と付き合うには、僕はまだ彼女を知らなすぎる。


そう。まだ僕は彼女と話して二週間程度しか経っていない。


確かに彼女と共にこれからを過ごしたい。けど、彼女の理想は今の僕では叶えてあげる事が出来ないかもしれない。


僕が彼女をもっと知ってあげなければ彼女をこれから幸せにしてあげることは出来ない。』


雅はそう思っていた。まだ時期早々だ。僕は彼女を知れるその時まで待つことにした。


夜風が当たって頭が冷えてなかったら今この場で告白していたことだろう。だが、冷静になって勢いに任せなかった。


それでいい。


優柔不断だと思われてもいい。


それでも雅はただ彼女の気持ちを一番大事にしてあげたい。


そう思っただけなのだ。


だから今回は彼女の話を聞いて終わりにした。


二人はホテルの部屋に戻った。


雅は荷物を持って外に出る準備をする京を横目に『いつか必ず京を僕のものにしてやる。』と心に誓ったのだった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。





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