第10話 (僕達+私達)の食事とマナー

「「「「頂きます。」」」」


僕らは静かに手を合わせ、小声で食前の言葉を言い、順次食事に取り掛かる。


テーブルマナーは幼い頃から両親に厳しく言い聞かせられてきたので、恥ずかしいと思うことは無い。正面に座る京もテーブルマナーは問題なさそうに見えた。問題は隣とその正面。


「ねえ雅、このスクランブルエッグ美味しいと思わないかい?」

「お前はもう少し恥を知れ、」

「あいたっ!!」


奏多の質問に答えず、雅は右手で軽くチョップする。雅は奏多がスクランブルエッグをスプーンで内側から外側に掬って皿の縁に卵が乗ったり、こぼしたりしているのを見ていられなかったのだろう。


今度は楓だ。


「京〜モグモグ、これおいしぃ〜モグモグ」

「楓。」

「ん?モグモグ」

「絶交よ。」

「なんでぇ〜!モグモグ」


これは単純にテーブルマナーとかいう以前の問題だ。口に物を入れながら喋ること自体が宜しくない。京は楓の宜しくない食べ方を厳しく注意し始めた。それを見た男子二人は、


「僕、気をつけるわ。」

「そうしてくれ。」


京の鬼のテーブルマナーレッスンに奏多が『僕もこうなりたくはないな。』と、楓の二の舞いにならぬよう、隣に座る雅の食べ方を真似して食べ始めるのであった。


正直こんな学校の旅行で行くホテルで皆がテーブルマナーを守らない中、厳しくそれを注意するのも細かい事だとは思うが、テーブルマナーは知っておいて損は無いので楓もいい勉強になっただろう。


-----


食事が終わり、僕らは夕方の涼しい散歩道を歩いていた。そこで奏多が疑問を口にする。


「ところで雅、出雲さんと何かあったのかい?」

「まあな。」

「へ〜聞いてもいいかい?」

「ああ。」


明らかに名前呼びで、しかも京の豊かな表情と気楽な話し方に奏多は違和感を覚えていた。それに最初に答えたのは京だった。


「私が雅に〈今のままだと友達なのに堅苦しすぎないかしら?〉って言ったのよ。」

「そういうことだ。」

「だから太宰くんも京と呼んで気楽に話して欲しいわ。」

「わかったよ、京さん。」

「ええ。」


奏多も気楽に京に話しかけることにした。奏多の返答に京は笑顔で返す。


「あ〜それなら私も楓でいいよ!私も雅君と呼ばせてもらうね!」

「ああ。それで構わないよ。」


これで一気に場の空気が明るくなった。


「なんというかさ〜、雅くんって話し方に余裕があるよね〜、男子版京みたいな。可愛い顔してるのに案外男っぽいというか、」


「可愛い顔をしてるかどうかは知らんが...そうか?」


「確かにね。雅の話し方には余裕がある。京さんの話し方の男子バージョンというのも納得かな。」


「私は話す時に余裕なんてないのだけど...」

「「そういうことじゃない」よ!」


京の言葉にバカップルが突っ込む。


『いい連帯だ。』


ハモる二人に雅が心の中で褒める。


ここで話しているのはあくまで話し方であって、話してる時の心の余裕ではない。そういう所で京はやはり抜けている。雅はこれに、


『京は若干天然も混じってるのか?』


と思った。あながち間違いでもないのかもしれない。


こんな話をしていると陽も沈み、辺りが暗くなってきたので四人でホテルに引き返すことにした。


-----


「じゃあ、今度もくれぐれも高校生でな。」

「わかってるって。」

「楓。わかってるわね。落ち着くのよ。」

「ママじゃないんだからそんなこと言わなくても!」

「ハイハイハイ、入ろう雅。」

「ああ。」

「最後まで話聞くー!!」

「楓、落ち着こう。僕らも入ろうか...」


ドアの前で楓さんが叫び始めるのを京は無視して僕と部屋に入る。あとは奏多がどうにかしてくれるだろう。


「ふぅ〜私、脱衣所で寝巻きに着替えてくるわ。」

「ああ。僕もここで直ぐに着替えとく。」


京は部屋着を持って脱衣所に向かった。


僕も制服を脱ぎ、一瞬で部屋着を着る。いくら男でも、好きな女の子に下着姿を見せるのは恥ずかしい。


着替え終わると制服のブレザーはハンガーにかけ、ワイシャツを畳んで使用した衣類の袋に放り込む。


すると着替え終わったのか、脱衣所の扉が開き、部屋着姿の京が姿を現した。


なんとも無防備な格好である。でも一度見たからか、少し慣れた。


僕は自分のベッドにダイブして枕の中で「あぁぁぁあああ」と声に出す。


さっき京もやっていたが、何故か大きい枕を見るとやりたくなってしまうのだ。


すると都があることに気がつく。


『ん?この香りは...』


雅が布団にダイブした時に髪の毛の香りが舞ったのだろう。その香りに都が気づく。


「雅?」

「はい?」

「私のシャンプー...使った?」

「ぁあっ!?」


『そうだった。言うの忘れてた!!』と、雅


『え!?え!?今私と同じ匂いしたわよね!?同じ匂いしたわよね!?これって!!』と、京


「申し訳ない!自分のをカバンに置き忘れて、アメニティもシャワールームに置いてなくて!」

「いえ、全然いいのよ!困った時はお互い様よね!その代わり明日の朝私に雅のシャンプー使わせてくれないかしら?」


京は許す代わりにずっと気になっていた雅のシャンプーを朝に貸してほしいと申し出た。雅に断る理由は無い。


「まあいいけど、いいの?」

「何がかしら?」


雅は女性は自分に合った一つのものに拘り、使い続けるものだと思っていた。急にシャンプーを変えて大丈夫なのかが気になった。


「いや、シャンプーやトリートメントを急に変えて大丈夫なのかなと...」

「別に問題ないわよ?」

「そう、ならいいんだけど。」


別に本人が構わないと言うなら、雅が拒否する理由もない。素直に明日貸すことにした。


雅は部屋の時計を確認した。


「じゃあ明日も朝早いから寝るか。」

「えぇ。そうね。」


今時計は夜の9時半を指している。明日の集合は朝の5時半なので準備等の時間を逆算してこの時間に寝ることにした。


各々のベットに付き、消灯して、


「おやすみ」

「ええ、おやすみなさい」


と寝る前の言葉を二人で掛け合い、2人とも深い眠りにつくのであった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。


レビューや応援もしてくださると嬉しいです。


それでは失礼致します。







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