第7話 (僕+私)の意識と香り

「じゃあまたね、雅。」

「ああ。奏多も、くれぐれもでな。」

「はははっ雅、冗談はよしてくれよ。」


僕は奏多に学校行事の普通のホテルで一線を超えるなよと忠告しておいた。


僕は愛しき彼女と一緒の部屋に泊まることとなった奏多と部屋の目の前で別れた。別れると言っても隣の部屋同士なのだから玄関開けたらすぐなのだが、まあ細かいところを気にするところではない。


僕ら男子組は女子組に「ちょっと準備あるから外で待ってて」「よろしく頼むわ。」と言われたので廊下を歩きながら雑談をしていた。


案外すぐに、いや、話に夢中になってたので案外20分や30分くらい経っていたのかもしれないが、女子組に「おっけー」「入ってきて大丈夫よ」と言われたので先程のように奏多と別れて自分の部屋に入ったというわけだ。


女子も女子なりに準備をしていたのだろう。男子、しかも付き合ってもいない者が女子のプライベートに突っ込むのはやぶ蛇というものだ。


僕は玄関を開けて部屋に入る。先客がいるホテルの部屋に入る時、自然と「お邪魔しまーす」と言いたくなるが、そんなこと言ったら出雲さんから「何を言っているのかしら、ここはあなたの部屋でもあるのよ」とかいう返事が返ってきそうなので言うのはやめておいた。


「待たせて申し訳ないわ。」

「いや、問題ないですよ。」


僕は背負っていたリュックを下ろして、


「お風呂で汗を流してきますね。」


と、先にシャワーを浴びて部屋着になった出雲さんに確認を取る。


「えぇ。どうぞ。」


出雲さんはそういうと布団の上にダイブしてスマホを見始めた。


『出雲さん...部屋着だ...しかも寝っ転がった時シャツがめくれてお腹が...クッ...』


僕は部屋着になった出雲さんに自分の緊張を隠すように脱衣所に向かい脱衣所の鍵を閉め、服を脱ぎ、シャワールームのドアに手をかけた。


まだ時刻は午後3時半。僕たちの班は他の班よりも速く歩いたし、最低限の所しか回っていないので、かなり早くホテルに着いたのだ。


しかし登山したことには変わりないし、走ったのだから汗もかいている。足も砂で汚れていることだろう。


女子と同じ部屋で過ごすのにその状態で部屋に居座るのも申し訳ないと思い、僕はシャワーを浴びることにした。


シャワールームはまだ濡れている。それもそうだ。出雲さんが使った後なのだから。


『そうか。出雲さんが使った後のお風呂なのか』


雅は一人で気恥ずかしくなりながらシャワールームのドアを開けて、入るとすぐに閉ざす。


シャワールームの中は何の匂いかまでは分からないが、ホテルのものでは無いシャンプーの匂いがする。


『あぁ。これが出雲さんのツヤツヤの黒髪を護るシャンプーとトリートメントの匂いかぁ〜』


雅も男子高校生なので少しこういう所には興奮してしまうが、『いかんいかん。失礼だよな。』と我に返る。


女性は肌や髪に関わる所にはとことん拘ると聞く。恐らく自分の普段使っているものを持ってきているのだろう。


かく言う僕も自分の使っているシャンプーとリンスーを小瓶に入れて持ってきている。


出雲さんの香りが漂うこの空間に自分の匂いをつけてしまうのは内心勿体ない、いや、男として名残惜しい気がするが、体を洗うためだ。やむを得ない。


「...あれ!?」


しかしここで雅は自分のシャンプー類をバッグに入れたままであることに気がつく。


部屋着の京に焦って風呂に入ったものだから雅はカバンから取り出すのを忘れてしまっていたのだろう。


ホテルの据え置きのシャンプーはフロントのアメニティコーナーにしか置いてない。


目の前には京の物と思われるシャンプーとトリートメント。


『神様仏様出雲様!どうかお許しください!』そう心で強く祈りながら僕はシャワーのお湯を出し、体を洗い始めたのであった。


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『はぁ...とうとう橿原くんに私のお風呂上がりの姿を見せることになってしまったわね。ドキッとしてくれたかしら...』


京は雅が自分の部屋着姿にドキッとしてくれているか気になっていた。そりゃ大好きな人に色目で見てもらえることは京にとって本望なので、見せることに恥じらいはない。


ただ、自分は雅にちゃんと異性として見て貰えているかが京の不安点だった。


『少なくとも今私達はとは言える状況よね。でも橿原くんが私を意識してるかとなると...』


少なくともこの二、三週間で雅となれたと京は確信している。ただそれは異性として気にされているかと言われるとほとんどの人が違うと答えるだろう。


少なくとも雅が京に対して意識しているかしていないかと言うのは判断材料がまだ足りなすぎる。


『...目付きが鋭い黒い髪の子よね。』


京は雅の言っていた情報が書かれているスマホのメモを見る。


『橿原くんは以前に好きな人がいるということを私に仄めかしていた。それが全くの他人なのか私なのかは分からない。』


ただ、その好きな人の特徴が今の所京にも含まれている要素であったので、『私もあるのではないかしら』と少々油断していた。


「可愛い女の子」と雅は言っていたが、それは人の主観で変わるものなのであまり考えないことにした。


もし雅の好きな人が京では無く、違う人だった場合、その油断の隙に雅を取られてしまうかもしれない。そう思ったから京は今回ホテルの部屋を強引にでも同じ部屋にしたのであった。


『...橿原くんが好きな人が私だったとしても、他人だったとしても、この機会を逃す訳にはいかないわね...』


京は今日何か進展がないか、もしくは何か好機を作れないかとタイミングを伺っていたのだった。


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